第26話 ネタバレ
自分の権利を奪われたくないがために集まった国々。その1つがナスラン王国だった。
もともとナスラン王国は領主の権力が強すぎたため王権は大して強くなかった。
王権というのは名ばかりで実態は各領主が自分の領地を定めていた。
だが外部との戦争があればそれぞれが持つ私兵を選抜し応戦する国であった。
そのため皇帝よりも実権を持っているように見えたフェーズ公爵を優先したはず。
(古代国家じゃあるまいし・・・元来王権が強いランチェアとは違いすぎる)
(この世界の経済は貨幣より物々交換だったわね。それに食料はほとんどが自給自足で収穫の時期が終わり次の穀物が収穫できるまで一時的に食料が尽きることもあった。
その際には食料を十分に持っている人から借りて収穫時期になれば返して生活する人も多かった。
しかし返す時の量が問題だった。)
(正直、利子だけで借りた量以上を返すのはあんまりだろ」
「それがわかる者なら嘆願書で訴えられることもなかったでしょう」
「それはもちろん彼らを問い詰めればみんなこう言うだろう。
『わかってて借りたそっちが悪いでしょ?』とね」
「そうですね」
「みんな自分の身だけが可愛いんだな」
(もちろん借りた人が悪くないとは言い切れない。だけど食べ物がなければすぐにでも死んでしまうから借りるしかないだろう。
その結果が目に見えていたとしても)
「・・・ナスラン王国には暴利を制限する法律がなかったはずだ」
「仰る通りです」
「だが我々は違う。ナスラン王国が帝国に統合されたのは最近のことではない。
もともとランチェアともかなり近かったし軍事力も弱かったから最初の段階で占領した。
確か5年前ランチェアに統合されたよな?」
「はい、ランチェアの法律上利子は最大30%までしか適用できないはずです」
「そうか・・・」
(この件はユリアが出るまでもないことだわ)
(高利貸し業者を呼びシリルの方で処罰すれば済む話よ。
それをユリアに報告するだけでよかったのにわざわざ持ってきた。
おそらく彼が狙っているのは処罰だけではない。真の目的は他の腐敗した貴族たちなのね。
法律通り処罰したとしてもバレなければいいという気持ちで頭を使う者が出てくるはず。
しかし皇帝が介入するとそれだけでその重さが変わるわ)
「・・・この件は私が出向いた方が良さそうだな」
「陛下がですか?」
「は?そのために私のところへ持ってきたんだろ?」
「・・・本当に勘の鋭いお方ですね」
「お前はいったい私をなんだと思ってるんだ」
「今とはまったく違う陛下を長らく見ていましたから」
(憎ったらしい男ね)
「お前にとってはこの私も便利な駒にすぎないということか」
「・・・」
「まあその扱いも悪くはない。
しかしシリル」
「はい」
「さっきのように私を試すような態度はそろそろやめてもいい頃ではないか?」
「気分を害されたのですか?」
「ただ気になるだけだ。いつまで私を試すつもりなのか。
証明はいつでもできるがこれでは効率が悪いと思ってな。
お前は効率の悪いことが嫌いだろ?」
ユリアの言葉にシリルがふっと笑う。
「承知致しました。今後は陛下を信頼するよう努力してみましょう」
「それはありがたい」
「ですがそれでよろしいのですか?」
「何がだ?」
「フェーズ公爵の件もありましたのに私を信用し城を空けると仰るのですから」
「それがいけないことなのか?」
「もしかすると私が次期フェーズ公爵になるために準備しているかもしれません」
(普通反逆を企てている人はそんな事言わないわよ)
ユリアがぷっと笑っていう。
「城には他の者も残っている」
「わかっております」
「城には私が信頼している者がいる。確かお前は彼らとはあまり仲が良くないと記憶しているが・・・」
「その者たちが演技をしているのではないかとお考えになったことはありませんか?」
「はぁ・・・そんなに誰も信用できないなら皇帝なんて務まらないぞ」
「そうですか・・・」
「何を心配しているのか大体の予想はつくがお前は少し考えすぎだ」
「そこまでしなくても私はお前のことを信じている。
そもそもお前はそんなことをするぐらいなら死を選ぶだろう」
「・・・陛下は思った以上に私のことをよくご存知ですね」
「わかってなければその座に任命することもなかっただろうな」
「クスッ・・・それもそうですね」とシリルが笑った。
第26話 感想
シリルとの信頼関係が気づけた感じでした。