第54話 ネタバレ
「お前がしたいようにお前が望む通り生きればいい!」
「本当にそう思っているの?」
「——あなたの言うとおり私にもかつてはふと頭の中をよぎる小さな願いたちがあったわ。でも完璧に備えをしたと思っていた現実ですらあまりにも苛酷で
同じ人生を繰り返している今でさえ私の足取りはあいかわらず危ういままだ。
「こんな私が他のどこかで他の誰かと出会って幸せに生きていけるのか再び耐え抜くことができるのか今は恐ろしさの方が先に立ってしまうの」
「——でもねジェレミー、本当はもっと重要なことがあるの私は今ようやく【幸せ】だと思えているのよ」
「始まりは義務だったかもしれない。でも何度夢の中をさ迷っても何度またこの人生を生きることになっても私はあなた達の側に残ることを選ぶわ。
それが私の望む人生だから」
「・・・父上がお前に背負わせた責任は不当なものだった。お前が1人でそれに耐えなければならない理由なんて何もないんだ。
お前が僕の盾として生きてきたこれまでの時間とそうして生きていかなければならないこれからの時間そのすべてに僕は報いる。
僕の信念を捧げるべき相手は皇帝陛下でもテオ殿下でもなかった。」
「今この瞬間からジェレミー・フォン・ノイヴァンシュタインはシュリー・フォン・ノイヴァンシュタインの剣となる」
「もう1人で戦わせたりしない。絶対に」
ジェレミーがシュリーに誓いをたてた。
「ジェレミー泣かないでヨハンはあなたを心から愛していたわ」
ジェレミーの肩はその後もしばらく小さく震えていた。
漆黒のような闇を越え夜が明けていく。
互いを抱きしめて鼻をすする私たちの側を柔らかな一筋の風が通り過ぎた。
長い冬を過ごし春を迎えるように私たちのさ迷える幼年期が終わりを迎えようとしていた。
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【サファヴィー国】
「それで・・・自分勝手に飛び出した遊覧は楽しかったのかハメリ」
サファヴィー国第12代王バヤズィト・ファシャが言う。
「本当に素晴らしかったですわ。それより私が国を離れている間に倒れでもされたらどうしようかと思っていたのですがお元気そうで幸いですお父様」
サファヴィー国第5王女ハメリ・ファシャが応える。
「王室の財政を使って遠慮もなく遊び回りおって。女の身であまりにも軽々しいふるまいだ。だから未だに婚姻の1つも成就できずにいるのだろう」
「先ほどの言葉は取り消しいたしますわ。お元気そうで残念です。今回の旅で私が調べ集めたこの資料が我がサファヴィー国とお父様の輝ける業績の役に立つことを信じておりましたが・・・
ただの恥知らずな女が残したくだらない足跡に過ぎないと仰るのですね・・・!!恥ずかしさのあまり今すぐにすべて燃やしてしまわなければ私の気が収まりません・・・!!」
ハメリの叫びに従者たちが急いで資料を回収する。
「お許しいただけて良かったですわ」
「とぼけたことを言うのはやめんか。・・・愚かな【あの阿保ども】ではなく・・・お前が男であったならどれほどよかったことか」
「私が女である事実はどうすることもできませんが男だけが統治することができるという我が王室の法度もお父様さえその気になれば変えてしまえるのでは?」
「どうやら首を切り落としてほしいようだな」
「その時はどうかよく研いだ剣を使ってくださいませね」
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突然猫が鳴きながら歩いていく。
「どうしたんだレイ?」
「アリィィィー」
「姉上!」
「可愛い私の弟!私がいない間元気だった?誰かにいじめられたりしなかった?」
「はい元気に過ごしていました。お迎えに行きたかったのですが今回もひっそりと戻られたのですね」
「そんなことに気を遣わなくてもいいのよ。旅の話を聞かせてあげようか?」
「ぜひ!姉上の冒険談にはいつだって興味津々ですよ」
サファヴィー国第7王子アリ・ファシャが言う。
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「そんなことがあったのですね。宮廷はしばらくの間帝国で開かれた裁判の話で持ちきりでしたよ」
「私も到着するなり聞かされたわ」
「偶然出会われたというその夫人と同じ人物なのですよね?」
「そうよ」
「とても気に入られたようですね」
「面白いと思わない?一滴の血の繋がりもない義理の息子を助けるために【あの】皇室と貴族たちの前に立って自身のベッドの事情を公開してまで離婚を要求したなんて。
今回の件で帝国首都ヴィッテルスバッハがどれだけざわめいたことか想像もつかないわ。彼女の噂はどれもこれも物騒なものばかり実際に会うととても清らかな人なのに」
「僕もいつかお会いできるでしょうか?」
「次の帝国の建国記念祭を待ってみなさい。あなたが顔を見せる番だから」
「——今ごろどこで何をしているかしら私も再開を待ちわびているわ」
第54話 感想
ジェレミーがシュリーに誓いをたてるシーンがとても綺麗でした。そしてハメリが久しぶりに出てきましたね。弟が可愛い感じの少年?でした。