第45話 ネタバレ
【ハメルside】
七年前、はじめてレラジエ様の未来を見たときに感じたのは哀れみだった。彼女の結末を知ってしまった以上目をそらすことができなかった。
師匠の葬儀のあと私が見た未来をもとに本を書いている最中も漠然とレラジエ様・・・彼女をお守りしたいと思っていた。それが恋だと信じていた。
ところが・・・
彼女に抱きしめられ気づいた。哀れみなどではなく湧き上がってくるような感情それが本当の『恋』なのだと・・・
いくら否定しようとしても押し殺すことができない感情。数日前、彼女のもとを離れていたら忘れられると思ってたのに・・・
(考えが甘かった。一体いつからこんなにも私の心の中を占めていたのだろうか・・・)
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「ハメル・ブレイ、私たち悪縁のようね。会うときはいつもこうだわ」とレラジエが言う。
「どうやらそのようです。このような姿ばかりお見せするなんて私も運が悪いです」
「ひとつ聞きたいことがあるの。『幽閉された王子と侯爵令嬢』という本・・・あなたが書いたの?」
「今さら隠そうとしても無駄ですね・・・偶然見てしまった未来をもとにして書いた本です」
「はじめはあなたの警告に困惑したけど本を読んでわかったの。もしあの本通りの未来が待っていたら私が不幸になってしまうもの。だから陛下と私を引き合わさないようにしようとしていたのでしょう?でもはっきり言っておくわ」
「・・・・・・」
「私はあの本なんて・・・あなたの予言なんて信じない。私が信じるのは私の感情のみ。
私が知りたいのは陛下のお気持ちであって不確かな未来なんかじゃないの。
私を助けようという名目でジンジャーとつるんでいるのなら無駄よ」
「・・・・・・」
「人生は自分で切り開くものだもの」
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(私は・・・私はただハッピーエンドを望んでいただけだ)
(師匠に呪いをかけられたイザナ陛下。叶わない恋に苦しむジンジャー様。愛する人に殺されるレラジエ様・・・誰も傷ついてほしくない・・・
ただお三方の幸せを願っただけなのに)
『・・・一人足りないじゃないですか』
『はい?』
『ハメル・ブレイ!あなたが欠けてます!小説の中でレラジエに想いを寄せてたあなたが!』
(自分の幸せすら考えられない私が人の幸せを願うなんて最初から愚かな真似だったのかもしれない・・・)
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「そうそう、陛下にさっき『ハメル・ブレイ』のことを聞かれたの。目をそらしておいたけど読まれてしまったかもしれないわ」とレラジエが去り際に言う。
「・・・・・・」
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「レラジエ!待ってレラジエ!今夜会えるんじゃって思ってたんです。よかった」とキース公子が追いかけてきた。
「あらお久しぶりです」
「実は・・・あの本を渡してから連絡がないからずっと気になっていたんです。今、帰りなら家まで送ってもいいですか?」
「・・・ではお願いします」
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「キキ、いただいた本は本当におもしろかったです」と馬車の中で話す。
「それならよかったです。内容が内容だったので心配していました」
「ただの小説なのでお気になさらず。まさかあの小説の内容を信じているのではありませんよね?」
「もちろんです。現実と似た部分はありましたがあんなの信じません。ジンジャーは信じてるのかもしれませんが未来が書かれた本なんてバカバカしい」
(僕が主役じゃない恋愛小説なんてノーサンキュ!!)
「・・・そうですよね。そんな本があるわけありません」
「ですので、どうかあの本のことは誰にも言わないでください。本の内容を人に話したりも」
「どうしてですか?」
「だって気味が悪いではありませんか。それに陛下のことも書かれています。万が一誰かに言えばキキによからぬことがあるのではと心配です。もちろん賢明なキキは人に話したりしませんよね。それなのに私ってばキキのことが心配で・・・」
「レラジエ・・・」
キースはレラジエの言葉に感動した。
(はぁ・・・この子はどうしてこんなにも心が美しいんだ。口の悪いジンジャーから乗り換えて正解だった)
「わかりました。レラジエのために絶対に誰にも言いません」
「ありがとうございます」
その後、レラジエの屋敷に到着する。
「お送りくださりありがとうございました。では失礼・・・」
「あっ・・・レラジエ!!僕にまたチャンスをくれるってことですよね?」
「・・・・・・う~ん・・・もちろんあの本をいただいてジンジャーが何を企んでいるのか知ることができスッキリしましたが私・・・怖いのです。一度亀裂が入った信頼関係を修復できるでしょうか・・・」
「レ・・・レラジエ・・・僕のせいでこんなにも苦しめていたなんて・・・レラジエの心の準備ができるまで待ってます」
「さすがキキは優しいのですね」
「それが僕の魅力ですよ」
「では近いうちにまたお会いしましょう」
(バカねもう二度と会うことはないわよ。あんたとは終わり!!それよりジンジャーあの子・・・)
『ジンジャー・トルテ俺が好きだと言っていなかったか?』と尋ねるイザナを思い出す。
(陛下との距離が縮まったというのは嘘ではなかったようね・・・)
(でも見てなさい仲がいいフリをしていられるのも今のうちよ)
第45話 感想
ハメルの恋は結局、現実でもうまくいかないようですね。小説と同じくライバルはイザナですからハードルが高すぎですね・・・