第36話 ネタバレ
【セレニアside】
それから他にも何かあったかしら?と考えるセレニア。
(そう、なぜかすべてを知っているような人に会って)
悲しむセレニアをバレリーが慰めてくれた時のことを振り返る。
(そういえばものすごい武術の才能を持つ人にも会ったけど・・・こんな感じだったかな?)と走るムレアの姿を描いた。
(この世界では本当にいろいろなことが起こるのね)
「セレニアお嬢様!よかった!いらっしゃったんですね!殿下からお話を聞いてもうここをお発ちになったのではないかと心配しました」
ビクトールが部屋に訪ねてきた。
「ここを出たって私には行くところなんてありませんわ。エドウィンとカイロスがうまく話をしてくれたおかげで連行されるのだけは免れました。
その代わりに焼かれた遺体事件の調査に協力することにしたんです。後でまた皇宮に行かなきゃいけないけど・・・」
「ちょっと待ってください」
ビクトールが話を中断する。
(ヤバい人物として疑われているからって慰めにきてくれたのかしら?)
ガサゴソ
「お祝いの品をお渡ししようと思って来たんです!」
「・・・え?」
「元の世界に戻れるかもしれない糸口を見つけたんですから。もしも戻れることになったらお土産くらい持って行かないといけないでしょう?
後になってセレニアお嬢様がこの世界のことを思い返したとき、あの時間はまるで春の遠足のようで花が美しかったとそんなふうに思い出してくれたらいいなという私の願いを込めました」
セレニアにガラスドームを手渡す。
「・・・・・・もしかして私が今すぐにでも逃げ出すかもしれないと思って慌てて来たんですか?」
「え?」
「じゃなかったらここまで急ぐ理由はないでしょう。ビクトールは私がその気になればいつでも姿を消せるって知ってるんですから。
だけど匿った女が自分の主君を裏切って逃げるんじゃないかってときに、お別れのプレゼントを渡すために駆けつけるなんてちょっと変じゃないかしら?
あなたは私がこの世界で出会った中で理解するのが一番難しい人だわ。カイロスのように私の強さに惹かれたわけでもないし。エドウィンのように私を面白がってるわけでもないのに・・・」
「まるで私のことをとても大切な人のように必要以上に気を遣ってくれているでしょう?どうしてなんですか?」
「それはあなたが私と同じ『ホーウィン』という姓だからです」
******
(この世界では同じ姓なら家族・・・?天涯孤独の私にとって唯一家族と言えるのは師匠だけだったのに)
(なぜだか今は顔すらぼんやりとしか思い出せないけど。何でだろ?・・・まぁ師匠にはお姉さんがいるし。
師匠がごく自然にお姉さんと出会ったみたいに私もどこにいても私のことを一番に考えてくれる『家族』をいつか自分で見つけられるのかしら?そう考えるたびにいつも師匠が羨ましかった)
「一人で浮かれちゃったわ。深い意味はなくて軽く言ってくれただけなのに」
セレニアが歩きながら独り言を言うと後ろから声が聞こえてきた。
「軽くない・・・こうとわかってたら材料くらい使用人たちに持って来させたのに。私が余計なことを・・・」ブツブツとバレリーが独り言を言う。
「バレリー?何をそんなに重そうに持って来たんですか?」
「ラン?りんごタルトを作ろうかと思ってたらつい口が滑っちゃって・・・人に作ってあげることになってしまったの・・・」
「誰にですか?この間言ってたバレリーが気に入ってる人にですか?」
「えぇっ??違いますよっ!きっきっ・・・気に入ってるだなんて!ちょっと感謝の気持ちを伝えたいことがあっただけですから!人にお世話になっておいて後は知らんぷりなんてできないでしょう?」
「・・・失礼じゃなかったら私にもそのりんごタルトの作り方を教えてもらえないかしら?」
「え?誰かにあげるんですか?ランの方こそ気に入った人にあげるとか?」
「いいえ!何言ってるんですか??私もただお世話になって・・・」
「わっ図星なのね。誰なんですか?もしかしてその手にしてるものと関係があるんですか?」
「何を言ってるんですか!!」
セレニアが動揺してムレアを描いた紙を落としてしまった。
「今日はいつもと違ってわかりやすい反応ですね~いったい誰だって・・・」
落ちた紙をバレリーが拾い似顔絵を見て固まる。
「もしかしてバレリーの知ってる人?実は私カイロスにこの人を知ってるか聞きに行くところだったんですよ。ほんの一瞬通り過ぎていっただけなのに走る姿が忘れられなくて・・・」
(マジか??)
第36話 感想
バレリーは自分のこと以外では鋭いようですね。そして珍しくセレニアが慌てていました。