第33話 ネタバレ
「そこで何をしている?」
「え?」
「早くこちらにきなさい」
エウレディアンに呼ばれたエレニカはディエリゴの袖から手を離し、嬉しそうな顔で駆け出す。
「今ちょうど行こうとしてたところです。こうしてまた会えた記念にハグしてもいいですか?」
エレニカはえへへと笑いエウレディアンに抱きついた。
(お父様の香りはやっぱり落ち着くな~)
「歓迎してくれるのは嬉しいが・・・まさか癖ではないだろうな?」
エウレディアンもエレニカの背中に手をまわして髪をなでる。
「癖?」
「誰にでもすぐ抱きつく癖のことだ」
「失礼な・・・わたしを何だと思ってるんですか?」
「ではこうやって多少大げさに歓迎してくれるのは何か問題を起こしたという意味か?」
エウレディアンの言葉にエレニカはギクッとする。
(これだから無駄に勘がいい人は面倒なのよね・・・)
「その表情は・・・図星か?まさかとは思ったが一体何があった?」
(実は・・・ちょっとした手違いで司祭向けの祈祷室に入っちゃってラウルス様の御声を音声で聞いちゃったうえに『許されない子』って言われちゃいました・・・なんて口が裂けても言えない・・・)
「!」
エウレディアンは両手でエレニカの顔を包み「今すぐ白状しなさい」とせまる。
「ちょちょっと放して———」
「先に抱きついてきたのはそっちだ」
(それはお父様がいつもガードを固めちゃうから!)
「問題児じゃあるまいし・・・本当に何もなかったですってば・・・!」
「そうかなら良かった」
「これじゃ完全に誘導尋問ですよ!」
「いらっしゃいましたか」
ディエリゴがエウレディアンに話しかけた。
「ああ・・・私がいない間本当に何もなかったのか?」
(司祭の祈祷室に入ったのがバレたら絶対怒られる!ディエリゴ言っちゃダメだからね!!)
「はい特に何もありませんでした」
ディエリゴはエレニカの頼もしい味方だった。
(ほ~ら何もなかったって言ったでしょ?)
安心したエレニカは意気揚々としていた。
「——ヘレナ嬢見てください陛下がまた・・・」「私の見間違いじゃないですよね?」「ええ奥様陛下に間違いありませんわ」
(!)
(な・・・何?いつから見られてたの?)
「姫どうした?」
「なんか人がいっぱい・・・いますね・・・」
エレニカは緊張した様子になる。
「お祈りを終えて祈祷室から出てきたようだが・・・どうかしたのか?」
「いや別に・・・陛下・・・早く行きましょう」
(やっぱりみんなに注目されると緊張して居心地悪い)
「・・・・・・そうだなもう遅いしそろそろ帰るか?」
エレニカはコクコクと頷く。
(体力的には問題ないけど精神的に限界だから早く帰って休みたいです)
******
「そういえばローブはどうした?」
「あっ!ディエリゴの部屋に置いて来ちゃいました」
「・・・誰の部屋だと?」
「ディエリゴの部屋です!そこで休んだ時脱いだんですけどうっかりしちゃって・・・・・・取りに行きましょうか?」
「・・・いやその必要はない」
エレニカとエウレディアンは行きと同じく馬に乗って帰る。
(わあ~星がいっぱいだ!今日は本当に長い一日だったな~)
皇城に戻る道はとても静かで平穏だった。溢れんばかりのバリシャドの星が沈黙とともに降り注ぐ・・・そんな夜だった。
******
城に着いた頃には疲れて眠ってしまったエレニカをベッドに寝せる。
肌から感じられるふかふかの布団と優しい手のぬくもり。それがその日の最後の記憶だった。
******
「・・・それで女を陛下から引き離すことに失敗しました。陛下が広場を封鎖されたうえロシェル様も来られたので・・・」
「そう・・・」
「も・・・申し訳ございません」
「まあ仕方ないわ」
(そもそも最も強い神聖力が彼女を守っているから成功するなんて期待してなかったしね)
「それで・・・ロシェル様はなんて言ってたの?」
「それが目をつぶってやるのも限界があると・・・」
「そう」
(よくも偉そうなことを・・・)
「分かったから帰っていいわ」
「は・・・はい!」
(さすが私の弟子なだけあって素早いわね。まあ・・・私たちのような部類は捕まったら死を覚悟しないといけないからそうなっちゃうのも無理ないわね)
「それより・・・たかが結界石ごときにユゲール広場を封鎖し本格的に捜査に乗り出すなんて・・・」
(紳士的な顔をしてユーデタまで届きそうなあの男の警戒の壁にヒビでも入ったのかしら?
エレニカ姫・・・今にも死んでしまいそうな弱々しい身体でやるじゃない)
『何を躊躇っている?今すぐ殺してしまいなさい』
「躊躇っているなんてとんでもない。わざわざ私の手で問題を複雑にする必要はありませんわ」
(あの男が姫に何も関心もないならまだしも下手に動いたらこっちが危ないからね)
『臆病者・・・』
「慎重だと言ってくれませんか?それに過程よりも結果が重要なのでは?」
(そう・・・私の目的はあの男と結婚すること。強力な神聖力を手にすることが出来るなら彼に媚を売ることくらいいくらでも・・・!
私に必要なのは新鮮な神聖力が流れる血と・・・最も純粋な神聖力で満たされた身体・・・
もちろんあの男を征服していく喜びもね)
「どうか心配なさらずに・・・私に任せてください」
(だから彼女には少しずつ枯れてもらうわ。あまりの苦しさに自ら諦めてしまいたくなるようにゆっくり魂を蝕んであげる)
(さあ夜が始まるわ・・・亡霊たちの時間よ)
第33話 感想
エウレディアンはディエリゴに嫉妬した感じに見えました。
それにしても、ソルレアと最後に話していたのは誰なのか気になりますね。何かしてきそうな感じでした。