第48話 ネタバレ
「お茶を用意させるからそこに座って待っていなさい」
「わたしがイメージしてた執務室とはちょっと違いますね。もっと居心地の良い感じだと思ってたんですけど。何となく息苦しいような・・・」
「そうか?」
「うーん・・・ちょっとだけ・・・」
エレニカが言うと陛下はふっと笑った。
「働き過ぎは身体に良くないですよ?陛下とわたしが半分ずつ混ざったら丁度良いかも知れませんね」
「半分ずつ?」
「わたしの場合は最近どんどん怠け者になってしまってるので・・・」
トントン
「入れ。そこに置いて下がっていなさい」
「はい陛下どうぞごゆっくりお楽しみください」
ティーセットが届くと陛下がお茶を淹れてくれた。
「わたしがしてもいいのに・・・」
「気にしないで座っていなさい」
「ありがとうございます」
(わぁ~ベルゴットの主人が淹れてくれたお茶だ)
「!」
(そういえばクラバットやネクタイは苦手なはずなのに・・・ここに来る前に貴族たちの謁見に応じたか重要な会議があったみたいね。
お父様は見た目と違って結構ひねくれた性格なのかも・・・ここで気に障るようなことをしたら更にひねくれてあの鋭い顔に変わるのかな?)
「ところで怠け者になったと言っていたがどういう意味だ?」
「うーん・・・活動量が急激に減って移動範囲が幼虫以下だって言われたんです」
「幼虫・・・?聞き捨てならないな一体誰に言われた?」
「あ・・・えっともう一人の自分・・・かな?」
(しまった!ラウルス様って言うわけにもいかないし・・・)
「それくらい動いてないってことですよ!部屋で過ごして一週間も経つのでそろそろ運動でもしないと身体が限界・・・」
「・・・・・・」
「あっ、でも別に不満があるわけではないです!」
「そう言われると罪悪感を感じてしまうな」
「ええ?そういう意味じゃないってご存じじゃないですか~」
「さあ・・・丁重にもてなすと約束したのだが・・・どうやら私は約束をよく守る男ではないようだ」
(そこまで深刻に受け止めなくていいのになぁ・・・)
「そういえば陛下にお願いしたいことがあります!」
「・・・?」
「陛下!わたしのこと名前で呼んでくれませんか?」
「それは断る」
「なんでですか!?この前、演武場の前で呼んでくれたじゃないですか!」
「悪いが記憶にない」
「陛下にだけ特別に呼ばせてあげようと思ったのに・・・本当に断るおつもりですか?」
「ああ・・・以前から気になっていたのだが」
「何ですか?」
「なぜ私にだけなのだ?」
「それが何を意味するか分かっているのか?」
(なぜって・・・お父様にもっと近づきたいから・・・でも全部正直に話したくはない)
「えっと・・・とりあえずイケメンだし。それに陛下のことが好きだから・・・?」
(あれ・・・?もう何度も言ったことあるセリフなのになんか恥ずかしいし本気で告白してるみたいだ)
エウレディアンはふっと笑い「またその話か」と言う。
「あ・・・」
「本気でもない言葉は真に受けないタイプでな。」
「・・・私は時々、姫が何を考えているのか気になることがあるのだが・・・いや・・・時々ではなくかなり頻繁にではあるな」
「・・・それはこっちのセリフです」
「ベルゴットで相手に名前を許すことの意味は姫の想像以上に大きい」
「単純に聞きたいからと言ったら・・・陛下に名前で呼ばれたいと言ったら十分な理由にはならないんですか?」
(もっと態度をはっきりさせてほしい・・・壁を作るならわたしが傷ついて二度と挑戦できないようにはっきりと・・・)
「姫はこれ以上私に手を出してはいけない」
「この前の件ではっきりしたはずだ。姫にとってベルゴットは好意的な場所ではないということが・・・
だからここへの未練は捨てなさい。大切な名前をこんなところに置いて行くのは勿体ないだろう」
(そう言われて本能的に分かった。この男はきっと最後までこうなんだって・・・本当の気持ちを隠したまま傷つけてはまた希望を与え・・・最後まで優しくわたしを拒むはず・・・)
(エウレディアン・ベルゴットは決してわたしを名前で呼んではくれないだろう)
第48話 感想
気持ちに気づく前はあんなに甘々だった2人がなかなかくっつかないですね。本当にエレニカは自国に戻るのかな?