第41話 ネタバレ
「・・・・・・日が暮れるからそろそろ中に入ろう」
「はい陛下」
(婚約者を取られた怒りとレラジエへのライバル心そしてイザナへの好奇心がすべてのはじまりだった。でも今は心から彼には過去のしがらみから抜け出し幸せになってもらいたいと思ってる
この思いが今度こそ伝わったかな?)
(イザナが閉じ込められてたタンプル塔・・・まるであの塔だけ別の世界にあるみたいな異質感を放ってる)
「塔が気になるのか?」
タンプル塔を見上げるジンジャーにイザナは尋ねる。
「俺が閉じ込められていたのだから気にもなるよな。別に特別なことは何もないよ。ただこの上なく孤独だっただけ。一歩も外に出られずあそこに来るのはメイドたちだけだった。
・・・ときどきこんなことを考えたりもする。俺におかしな力がなかったら平凡に父上と暮らしていたら・・・今の俺はもっと・・・幸せだったんじゃないだろうかって」
「・・・そうとも限りませんよ!」
声を上げるジンジャーにイザナはビクッと驚いた。
「お父様との生活の方が不幸だったかもしれません。それにこれから幸せになればいいじゃないですか!」とボロボロ泣きだすジンジャーにイザナはポンポンと頭を撫でて慰める。
「まぁ・・・塔の中にいたときより今の方がずっと幸せかな」
(呪いも呪いだけどこれはすべてあの塔のせいだ。視線の片隅に映るあの塔の存在が俺の傷をえぐる。かといってあの塔を解体したところでトラウマまで癒えるわけではないだろうから・・・)
「イザナ陛下」
「うん?」
「あの塔の中を案内していただけませんか?」
「・・・えっ?」
「陛下が過ごしてた塔に入ってみたいんです」
(解体できないのなら少しずつ変えていけばいいのよ。あの中で楽しい時間を過ごしたら・・・ひょっとしたら嫌な過去を忘れられるかも)
「無理にとは言いません・・・もちろん断られると悲しいけど・・・」
「・・・わかったいいだろう」
「ありがとうございます陛下!それなら私、陛下のためにお弁当を作ってきます」
「ピクニックに行くと言った覚えはないが。う~んそれより生姜令嬢、料理・・・できるのか?」
「陛下がお望みならがんばっちゃいます!!・・・味の保証はありませんが。私が料理するとどういうわけか・・・生姜なんか入れてないのに生姜の味がするんです・・・」
「えっ?」
(料理するのが嫌で嘘をついてるわけじゃない。ホントに何を作っても生姜の味がしてしまうの!ひょっとして私には生姜の呪いがかけられてるんじゃ)
「・・・俺はまたどうして生姜味の食べ物が気になるのだろうか」
「陛下って変わったものがお好きなんですね」
「いや、そうじゃなくて・・・俺はただ生姜令嬢と生姜味の食べ物と一緒なら塔に入っても平気かもしれないと思っただけだ」とイザナがクスッと鼻で笑う。そんなイザナに気持ちが高ぶるジンジャー。
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ジンジャーが帰った後、イザナは部屋でひとり本を見ながら物思いにふけっていた。
「『好き』・・・」
一つ目あることや事実に好意を抱くこと
「でも俺は事物じゃない。これは違うな」
二つ目、特定の食べ物に心が引かれること
「・・・まさか俺を食べようというわけではないだろうし。これも違う」
三つ目、特定の運動や遊び行動などを気に入ること。
(違う)
四つ目、他人を大切にし親密に思うこと
(『好きな男に今みたいなこと言われたら傷つきますよ』か・・・恐らくこの四つ目の意味だと思うのだが・・・)
「・・・俺は一体何をしてるんだ」
(・・・近づきたくもなかった塔なのに)
『それじゃ明日一緒に塔に行きましょうね。お弁当は私に任せてください!』
イザナはジンジャーのことを考えていた。
(ジンジャーと一緒に行くと思うと楽しみになる。うん?あれは・・・あのかばん生姜令嬢のものだが・・・忘れていったのか?どうして生姜令嬢は何もかもが生姜に繋がるんだ?まさかかばんの中にも生姜が・・・?)
「・・・・・・」
(こういう・・・バカげた思考も伝染するのか?これはまた明日渡してやろう)
イザナが鞄を持った時、中身が落ちてしまった。その時、ネックレスを発見する。
(これは・・・レラジエ・アトランタのネックレス?すんなりこれを生姜令嬢に渡したとは思えない・・・まさか俺に渡そうと盗んだのか?昨日ララに会ったと言っていたのはこのためだったのか・・・)
(奥深く輝く赤い光・・・かなり美しいネックレスだ。ゲシュトはどうしてこのネックレスを孫娘に遺したのだろうか?どうしてこれを身につけている人の心が読めないんだ?)
(!?)
(H・・・B・・・?)
ネックレスを眺めているとイニシャルの文字を発見した。
コンッコンッ
「入れ」
「陛下ご報告があり参りました」
「ゲシュトについて何かわかったのか?」
「はい」
「彼が息を引き取った流刑地を調べた結果ゲシュトの臨終を見守った弟子が一人おりました」
「弟子か・・・」
「あまり知られていない人物ですのでゲシュトが流刑地で新たに養成した人物だと思われます」
「その弟子は今どこだ?」
「まだ所在がわかっておりません。ゲシュトに仕えていた使用人によりますと五~六年前に忽然と姿を消したそうです。幸いなことに名前は聞くことができましたので調査を続けて参ります」
「名前?」
「はい、その弟子の名前は・・・ハメル・ブレイです」
第39話 感想
せっかく忍び込んだのにすり替え失敗だったようですね。ハメルがイニシャルを刻んだと言っていたのに焦って見逃したのかな?それとも聞いてなかったのかは分かりませんが・・・