第31話 ネタバレ
「私には心を開いて愛を交わせるほどの余裕はなくて公爵家の女主人になるとかそういう高い地位に就くにはとても未熟な人間なんです」
「・・・僕もあなたが立派な女主人になってくれるなんて期待していない安心してくれ」
(??・・・何だこいつ?)
「え・・・それならどうして私を婚約者に選んだんですか?」
(この人の言ってることは事実だし私もそう思ってたんだけど何となーく気分悪いのはなぜ?)
「僕は幼いときに両親と死に別れて一族の主となった。だから一族の勢力を維持するためには結婚よりも優先させなければならないことがたくさんあった。結婚相手としてあなたを選んだ理由は結婚を無期限に延期しても催促などできない・・・その程度の一族の娘でさらに控え目な性格の人が必要だったからだ」
「・・・もともと結婚する気はなかったんですね」
(帝国で最も権力のある家で私を選んだ理由がこういうことなら、じゃあ『身の程も知らずに高い地位に上がること』っていうのはまだまだ遠い未来の話なの?それとも)
「僕が自分で立派な夫になれる自信もないくせに相手にはそれを望むなんて理屈に合わないだろう」
(この人とは関係がないかもしれないの?)
「それから、さっき言ったように心を開くのはあなたが努力することじゃない。僕が努力してあなたの信頼を得ようと思ってる。だからあなたは今みたいに好きなだけ僕のことを警戒していればいい」
「そんな矛盾したことを・・・」
「いいんだ。あなたはいつかきっと僕のことを信じるようになるから」
カイロスが白い布を被り両手を組んで話す。その姿を見てバレリーは笑いながら「もしかしてわざとやってるんですか?」と尋ねた。
「そんな訳ないわ。この世にこんな宗教はないんだから。とんでもない、これってかなり信じなきゃいけないって思わせる姿ですよ」
その言葉にドキッとしたカイロスは(これは希望が・・・!)と思う。
コンコン・・・
「希望に満ち溢れているところをすみません団長。皇宮で団長をお探しです。」と騎士がカイロスを呼びにきた。
「あぁそれじゃあ早く行かれたほうがいいですね」
ガックリするカイロス。
(申し訳ありません公爵様、お嬢様。お二人がいい感じになってるのでお邪魔したくなかったのですが国家に歯向かうことはできませんでした!)
「お嬢様お熱が下がったようでしたら公爵様をお見送りしましょう!!」とメイドが言うとバレリーは「いやいや・・・そんなことまで・・・」
「そうだそんなことまでする必要はない無理するな。僕のことは気にしなくていい」とキラキラした目でカイロスが言う。
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結局バレリーは成り行きで公爵を見送った。婚約式も終わり体調が悪いことを言い訳に今日の教育の予定も延期した。
「ちょうどいいから今日は一人でドウェロ家の庭園を散策することにしたわ!」
「えぇぇぇ??お嬢様はご実家にいた時から暇さえあれば庭園で姿を消してしまって・・・その癖がまだ治ってないんですか?」
「心配しないですぐ戻るから」
(そりゃあ貴族の娘に生まれて暮らしには何の不自由もなくていいけどプライベートがないのは息苦しいのよ。ボルシェイク家にいた時は自分だけの空間を作って使用人たちの目を避けて一人の時間を楽しんでいたけど、ここにはそういう場所がないかしら?)
(ここは何だろ?・・・セレニア?)
「まぁっバレリー!どうしてここへ?」
セレニアがバレリーに気付き近寄ってきた。
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「絵を描いていたんですね」
「少し時間があったので。恥ずかしいわ」
(・・・この女はできないことがあるんだろうか?)
「何の絵だと思いますか?」
「え?うーん・・・幸せな老夫婦・・・みたいな?」
「ええそのとおりですわ!カイロスとバレリーの末永~い幸せを祈る婚約のプレゼントなんです!」
「要らんっ!!」
(こんな素敵なプレゼントは初めてだわ)
「あ・・・ごめんなさ・・・」
(あまりの衝撃にうっかりフキダシを間違えた!)
「あっいや本当はすっごく必要なんです!言い間違えちゃったわ!」
「いえ・・・気にしないでください。お友だちができて嬉しさのあまりつい調子に乗ってしまったようですわ」
「そういうんじゃなくて・・・嫌なんじゃなくてただ・・・末永い幸せっていうのが不自然に思えて」
(そういえば二人はいつも隠し事なんてしないのに私一人が想像でとんでもない誤解をしてたのね。それじゃあ今回は・・・)
「・・・あの悩みを聞いてもらえますか?私の話じゃなくて知り合いの人の話なんですが・・・」とバレリーは話す。
第31話 感想
カイロスも最初は結婚する気がなかったようですね。誤解がとけたようでよかった。そして次回はセレニアに知り合いの話として打ち明けるのかな?