第22話 ネタバレ
(・・・エリアスはやんちゃだけど場の空気には敏感な子だから後回しにするとして・・・
ジェレミーが自分の気の向くままに振舞う傾向が強いということはよく分かっていたのだけど・・・
他人の前でまでこんなに自分勝手に振舞うなんて・・・!!
でも父親の追悼招宴だから普段ならここまで不愛想な態度をとることはないはずなのにニュルンベル公子との初めての出会いが最悪だったせいかしら
悪縁に悪縁が重なってしまったのね・・・)
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「エリアス、レイチェルとレオンは?」
「さあ?あっちで菓子を食っていたような気がしなくもないけど・・・」
「お願いだから弟妹たちのことをちゃんと見守ってちょうだい」
「ガキのお守りなんて兄貴に任せればいいだろ」
「——でもジェレミーよりはエリアスあなたの方が双子と遊んであげるのが上手じゃない。2人ともよく気が合うみたいだしジェレミーが追いかけていったらあの2人は逃げてしまうわ。怒られると思って」
「!」
シュリーの言葉を聞いたエリアスはウズウズしだす。
「気が合うだって!?そんなことねーよ!!あいつらよりは俺の方がず~っと大人なんだからな!!でも仕方ないから今回だけは面倒見てやるよ!!」
エリアスは「おい!レイチェル!レオン!どこ行った!?」と言い意気揚々とかけて行く。
(子供たちはしばらくの間大丈夫そう・・・かしら。ジェレミーは上の階で同い年の子たちといるはずだし)と考えるシュリーに皇太子殿下が声をかけてきた。
「お疲れのご様子ですね」
「皇太子殿下」
「シッ こっそり来たんです・・・もう宮へ帰らなければならないのですが、このままお別れしてしまうのが残念で。一杯お付き合いいただけませんか?」
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皇太子の誘いにこたえシュリーはテラスで酒を一緒に飲んでいた。
「皇帝陛下はお元気でいらっしゃいますか?」
「父上はいつも元気ですよ。今日の招宴にも参席したがっていらっしゃったのですが父上は本来あまり心の内を言葉にされない方なのですがヨハネス侯爵についてはどれだけ聡明で機敏な手腕家であったか時々思い出されては語られていらっしゃいましたよ。
ヨハネス侯爵に相応しい素晴らしい招宴でした。故人もきっと喜んでいらっしゃることでしょう」
「ありがとうございます皇太子殿下」
テオバルト皇太子、ルドヴィカ前皇后の実子で文字通りの嫡流。現皇后であるエリザベートの息子レトゥラン第二皇子がいるものの皇帝陛下だけではなく教皇庁の庇護までを背負うテオバルト皇太子と幼く愚鈍で病弱なレトゥラン皇子のうちどちらが後継者として相応しいのかは火を見るより明らかだった。
そうして早いうちから皇室権力の中心人物として浮上した彼だが物心つく前に実の母親と死に別れ広い皇室で肉親と言えるのは厳しい陛下だけ。そうして寂しく育った皇太子に友として父親同士が引き合わせたのがジェレミー・・・
過去のジェレミーはごく当たり前のように皇室騎士団に入り『皇太子の剣』となることを望んだ・・・まるで決められた運命のように。
皇太子のもっとも近しい友人という役割も皇室騎士団長という地位もジェレミーよりも皇太子の従兄弟であるノラに相応しいものだったけど・・・
(あのニュルンベル公爵夫妻までも慌てさせるなんて!公子も・・・なかなかの問題児みたいね・・・!!もしかしたらジェレミーよりも・・・だからライバルになったのかしら・・・!)
「あの・・・夫人 大丈夫ですか?」
「!!」
「故人のことを思い出していらっしゃったのでしょう?物思いにふけっていらっしゃるご様子で。眼差しもどこか寂し気でしたし」
「皇太子殿下・・・」
(ほ・・・本当に思いやりに溢れるお言葉なのですが・・・本当は全然違うんです~!)
「悲しんでもいいんですよ。まだ成人式も迎えられていない夫人が信じ難いほどに多くの苦難に耐え抜いてこられたと聞きました」」
「ただやるべきことを行ってきただけですわ」
「僕もまた大切な人を失い皇太子としての本文を尽くすために必死だった時期がありました。でも押し寄せる苦痛までも当たり前になることはありませんでした。だから誰もいない場所では思いっきり悲しんでもいいんですよ」
キイッとドアが開き兵士が皇太子を呼びにきた。
「殿下、宮へ戻られるお時間です」
「ああ・・・もうそんな時間かい?」
「それでは・・・皇太子殿下」
「もう帰らなければならないなんて残念です。夫人と出会ったのは今日が初めてでしたね・・・議員会のために皇宮に来られることも頻繁にあるでしょうにきっと僕が本宮にひきこもってばかりいるせいでしょう」
「私も議会にだけ参席してすぐに帰ってきていましたので」
「でも・・・何だか不思議な気分です。こんなに慣れ親しんだような感覚になるなんてまるで
他人とは思えないほどに」
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『押し寄せる苦痛までも当たり前になることはありませんでした。だから誰もいない場所では思いっきり悲しんでもいいんですよ』
シュリーは皇太子が帰った後もテラスで皇太子の言葉を思い出していた。
(私・・・どうしちゃったんだろう?お酒のせいかしら?
ほろ苦い葡萄の香り思ってもいなかった温かな慰め今はこんなことに酔っている場合じゃないのに。
まだ屋敷の灯りは消えていないのだから)
第22話 感想
テオバルト皇太子が最後に意味深な言葉を残していきましたね。皇室となにか関係があったからシュリーは侯爵の夫人になったのかな?