第52話 ネタバレ
17年前——
ライヒ伯爵「あまりにもひどい・・・!神から贈り物だと言われる薄紫色の薔薇・・・長い間忘れられたまま今に至りようやく日の目を見られるようになったというのに廃棄しろだなんて!
歴史的、学術的価値は皇室にとって何の意味も持たないということでしょうか・・・!?ヨハネスあなたもこの薔薇の価値を知っているからこそ
私への支援を惜しまなかったのではありませんか・・・!」
「あの薄紫色の薔薇は皇帝陛下がルドヴィカ皇后へ捧げた花です。皇室のものであるからにはその終わりを決めるのも陛下の自由でしょう」
「そうですが・・・しかし・・・!」
「業務のためすぐに皇宮を離れなければならず君の力になることはできないが幸運を祈っています」
「・・・・・・いくら何でも・・・これはあんまりです・・・侯爵様であればきっと私と同じお考えでいらっしゃると信じています・・・」
騎士「ライヒ伯爵はお入りください」
「!」
どうしてそう思ったのかは分からないが
愚鈍な私でも
彼のうしろ姿を見た瞬間
気付いたのだ
すぐに皇宮を去ると言った彼が
肖像画の下で長い間
立ち続けるであろうことを
******
「一体あなたたちは何のために結婚したのですか!?」
ザワザワ
「——契約と同様です。
ヨハネスは私が広い世界でより多くの機会に触れることができるよう手助けをしてくれただけです。私の潜在能力を高く買ってくれていたのです」
「到底信じられませんな!ならば他の裕福な貴族たちのように名誉ある後援者の真似でもすれば済むものを!わざわざ多くの非難まで甘受しながら夫人を娶る理由が他にあったはずでしょう!」
ニュルンベル公爵「下品な憶測はおやめください!」
「あの・・・確かなことは・・・分かりませんが・・・ヨハネスが夫人を選んだ理由はおそらく・・・」
皇后陛下とニュルンベル公爵がピクッと反応した。
「そこまで!!」
皇后陛下が大きな声で止め裁判に出席した者たちが驚く。
「この場の全員が恥ずかしさの欠片も知らぬ獣になってしまったようね!このような程度の低い公判は悪質な前例を残すだけ!これ以上黙って聞いてはいられないわ」
「本裁判の撤回を命じる!」
ザワッ
「!!それは不可能です皇后陛下!」
「枢機卿あなたたちは神聖な言葉を紡ぐべきその口で今までどのような言葉を吐いていたのか振り返ってみるべきね。皇太子」
「!」
「母上が命じられた通りこれ以上裁判を行う必要はありません。ジェレミーは僕の古くからの友達。小さな誤解を大げさに騒ぎ過ぎてしまったようですね。
驚きのあまり心の余裕を失いもっと早くこの事態を落ち着かせるべきだったのにそうしなかったのは僕の大きな過ちです」
「・・・このように当事者である皇太子が直接前に立ち罪人を許すことを進言したのでこれ以上の言葉は必要ないでしょう。皆、家に帰って年末をゆっくり過ごしながら頭を冷やすように」
「そして婚姻の中止を行う必要はなさそうね。すでにもっともふさわしい座に身を置いているようだから」
【シュリーside】
——裁判が終わった。
ジェレミーは無事で
私も皆の側を離れずに済む
「ママ!!」
「!?」
あれは・・・エリアス!?双子まで・・・
ドクン
どうして・・・?
ドクン
(家で待っているはずの子供たちがどうしてここに——)
ドクン
「カッコよかった!!」
「ママ!!」
「兄様はもう大丈夫だって!もう少ししたら出てこれるって!!」
「早く家に帰ろう!!」
「本当にすごかったよママ!!」
「でもどうやって家に帰ればいいんだっけ!?」
「ママの馬車に一緒に乗ればいいよ!」
「あっ!公爵家にも寄ってもらうように言わなきゃ」
「あ・・・ありがとうございます」
・・・そうだ
聡明な子たちだけど
今日のような事件を理解するにはまだ幼すぎるのね
よかった傷付けることにならなくて・・・
「カッコよかったですよシュリーさん」
「ノラ・・・?」
ノラが手を振る。
(ここまで応援しに来てくれたのね)
ようやく
「ノラ」
心が軽くなった
「私、勝ったわ!」
シュリーが笑顔で言う。ノラはドキンとした。
【ノラside】
(俺はどこにも当てはまらない欠片だった)
角張っていて使い道なんてなくて
無造作に捨てられた
小さな欠片
ただ彼女だけが
今のままでいいのだと
俺を信じてくれた
『あなたは勇気を与えられる子だから』
そうなりたい
感じたものよりも
与えられたものよりも大きな温もりに
いつだって今日のように
世界中が彼女の敵であったとしても
傍に立つ俺を見て
微笑むことができる
あなたの平和に
******
【シュリーside】
高波のように私たちを襲った裁判は
誰も予想していなかった形で幕を閉じた。
子供たちがいないことに気づき血相を変えて駆けつけてきたロベルトとグウェンが
皆を無事に家に連れて帰ってくれた。
ジェレミーは仰々しかった逮捕過程に比べて
あっけないほど簡素な釈放手続きを終え自由を取り戻した。
あんなことを経験しても凛とした姿は相変わらずだったが
一方で何か深い苦悩を抱えているように見えた。
裁判を見に来ていた人々はまるでつまらない演劇に愛想を尽かしたように
何の未練もない様子で足早に消えていった。
次々とかけられる挨拶の言葉と雑多な騒音の間で
これからも私を執拗に追いかけ続ける
真っ暗な視線が
静かに光ることを
感じていた
******
キイッ
「いらっしゃい。話したいことが山ほどあるでしょう。あなたもそして私もね」
「お座りなさいノイヴァンシュタイン侯爵夫人」
第52話 感想
ライヒ伯爵がルドヴィカ皇后の話をしようとしたらあっけなく裁判が終わってしまいました。ルドヴィカ皇后とシュリーは何か関係があるのか気になります。