第9話 ネタバレ
「休養のため2ヵ月ほど休暇をいただきたいです」
「・・・2ヵ月は長すぎる1ヵ月にしなさい」
「では1ヵ月半はどうでしょうか閣下」
「先ほどから一体なぜ・・・」
どうせコゼットが現れたら退くことになるだろうし、そうなる前に自ら退いた方がいい気がする。それに・・・調べないといけないことだって山ほどあるしね。
「私もそろそろ心身ともに限界のようです閣下」
父が唖然とする。
「・・・そのようだな。1ヵ月半ではなく2ヵ月ほどゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます。ではこれで失礼します閣下」
バタン
キイラが去った後も父はぼーっとしていた。
『この私が閣下の時間を無駄にするわけが・・・』
『私もそろそろ心身ともに限界のようです閣下』
『ではこれで失礼します閣下』
「・・・閣下?」
******
(私が死んだ後どうなっただろうか?お父様は実の娘と幸せに暮らし・・・帝国は災いを免れ・・・私の死をみんなで喜んだのかな?)
「公女様」
「ジョゼフ卿?さっきのことなら気にしないで。本当にジョゼフ卿に申し訳なくて謝っただけだから」
「いや・・・今日の歓迎会のことで来ました」
「歓迎会?あ・・・」
恥ずかしそうに顔を赤くするキイラ。
「さっきも言ったけど・・・みんなの邪魔をしてるって知らなかったの。だから本当に私のことは気にしないでみんなで楽しんで!それにもうすぐ団長も辞めるつもりだから」
「だ・・・団長を辞める!?急にどうして??」
「最初から私に務まるわけなかったし本当の当主に返すだけよ」
「そ・・・そんなことないです!それにみんなが言っていたことはつまり・・・公女様のことがイヤで来てほしくないという意味ではありません!何となく監視されているような気がして・・・」
「監視?そのつもりはなかったけど・・・」
「歓迎会はみんなでワイワイ楽しむための場ですので・・・怖い表情で黙っていらっしゃるから誤解されてしまったのです」
「つまり・・・みんなに嫌われていたわけではなかったってこと?」
「分かってる・・・みんな難しい試験に合格した優秀な人材だから血統であることが唯一の取り柄の私なんかを上司として認めたくないってことくらい・・・」
「一体誰がそのような妄言を・・・?
パルビス家の血筋が団長を務めるのは長い伝統ですし私たちの当主となられるお方が団長を務めるのは当然のことです。一体誰がそのような無礼な発言をしたのか教えてください!私の方から厳重に——」
「そんなこと誰も言ってないから落ち着いて」
「では、それとなく不快感を示したのですか!?」
「いや、そういうわけでも・・・」
「え・・・?ではご自分でそうお考えになったのですか?」
キイラが真っ赤になりながらも頷く。
「一体なぜそのような誤解を・・・」
「私たちは公女様を誇りに思っています」
「公女様は百年に一度現れるかどうかと言われるほどの逸材ですし、次期当主が私たちを率いてくださるのですから誇りに思って当然です!
それに血統だけが取り柄だなんてとんでもないです。公女様の剣術を実際に見てからも団長としての資質を疑う者がいるなら連れて来てください」
「でも、みんな楽しく騒いでいても私が現れたら静まりかえってしまうじゃない」
「それは公女様が次期当主であり精霊士になられるお方だからですよ。イヤだからではなく正直ちょっと近寄りがたい存在だからです。
そうだ!大公閣下が良い例になるでしょう。閣下が怖い表情で黙って座っていらっしゃったら・・・騒いでいられますか?」
「む・・・無理かも。品のない貴族だって思われるといけないからそうしてたのに・・・」
キイラが落ち込む。
「さっきの仲良くなりたいというお言葉・・・まだ有効ですか?」
「え?」
「みんな公女様をお待ちしています」
「私を・・・?どうして?」
「歓迎会ですよ!遅れるとみんな酔っ払って解散してしまうかもしれません。さあ早く行きましょう!」
『私たちは公女様を誇りに思っています』
認めてもらえた。お父様に認めてもらえなかったら全部無駄だと思っていたけど・・・
(私の努力は・・・無駄じゃなかった!)
******
「団長!お待ちしてましたぁ~」
「おいジョッキ持ってこい」
ガヤガヤ
「どうぞ、こちらへ」
「みんな揃ったようだ」
「じゃあ、そろそろ製造しますか?」
(製造?なにを?)
「本日付けでパルビス騎士団に入団いたしましたレイナ・ガドナーと申します!」
「あの新米が面白い芸を披露してくれるそうですよ」
「面白い芸?」
木製のジョッキを並ばせて上に水を置く。レイナが剣を振って水が入った器を倒した。周りの騎士たちが盛り上がる。
「まったく・・・!」
ジョゼフ卿が呆れていた。
「ん?」
キイラはついていけない様子で、とりあえず拍手をする。
続いて、騎士達が集まりジョッキに大量の酒を入れて喜んでいた。
(えぇぇええ!?)
第9話 感想
キイラがついていけない様子でしたが楽しめればいいですね。