
第56話 ネタバレ
「・・・・・・・・・・・・?・・・皆?」

(いない・・・!ホテル内のどこにも・・・!)
「ジェレミー!ノラ!」
「シュリー?」
「エリアスがここに来なかった?」
「エリアス?」
「ああ、やけに静かだと思ったらあいつがいなかったのか」とノラが納得する。
「温泉だか何だかに行ってきてからは見てない気がするけど。僕はこいつと手合わせするためにすぐ外に出て来たんだ」
「それじゃあ・・・双子も見てないの?」
「ああ、どうしたんだ?」
「・・・いなくなったの・・・」
「!?」

「あの3人が形跡もなく消えてしまったの・・・!」
******
ザワザワ
「ホテル内には見当たりません!」
「分かれて周囲を捜索します!」
「奥様、あまりご心配なさらずに。この辺り一帯は警備が徹底されていますからきっとご無事ですよ」
「・・・・・・」
いくら治安の良い休養地だとはいえ四方を山脈に囲まれている上にこの吹雪・・・!

(野生の獣にでも出くわしたら・・・足を踏み外して崖から落ちてしまったら・・・」
一体どこに行ったの・・・
ジェレミー「落ち着いて待っていろ。きっとどこかで遊び惚けているに決まってるさ。ひっ捕まえて連れてきてやる」
ノラ「うちの家門の騎士たちと一緒に探してみます。きっと遠くまでは行っていないでしょうから」
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「ノイヴァンシュタイン公爵夫人?何の騒ぎですか?」
「——ニュルンベル公爵様」
吹雪のなか外にいたシュリーに声をかける。
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公爵がコーヒーを出してくれた。
「あまり悪いように考えすぎない方がいいですよ。あの年頃の子供たちは一瞬でも目を離せば煙のように消えてしまうものですから。
すぐに騎士たちに捕まって泣きながら戻ってくるでしょう」
「そうでしょうか・・・」
そうね・・・落ち着こう。私が慌てていてはダメだわ。きっと近くにいてすぐに見つかるはず。
「——昼に偶然ノラ公子と出会いまして。うちの子供たちと一緒に夕食を取らせたのですがご迷惑ではなかったでしょうか・・・」
「とんでもない、むしろうちの息子が何か迷惑を掛けませんでしたか?
ハイデが先に休んで私もいろいろと考え事をしていたためうっかり夕食をとるのを忘れていました・・・本当にありがとうございます」
「何か悩み事でも?」
「——帝国を憂うのが私の仕事ですから。悩み事は尽きないものですよ」
公爵様と言葉を交わすと自分でも気付かない内に心が落ち着いていく。
(物腰が柔らかくて気品があってまちがいなく優しい方なのに)

どうしてノラにはあんなにも冷淡なのだろうか
「そういえば妻が夫人にノラのことでとんでもないお願いをしたそうで謝罪が遅れました。本当に申し訳ございません」
(【マナー授業】のことね)
「いいえ謝っていただく必要なんて・・・」
「ノイヴァンシュタイン家の子供たちの面倒を見るだけでも大変でしょうに」
「大丈夫ですわ。負担になるような頼み事ではありませんでしたから。それにノラは本当に良い子なのでむしろ私の方がたくさん力をもらっています」

「公爵様・・・ノラは本当に良い子ですわ。その点をどうか分かってあげてください」
「奥様!!」
「!」
「見つかりました!」
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「エリアス・・・!!」
エリアスがガタガタと震えていた。
ジェレミー「こいつ山の尾根で1人でブルブル震えていたんだ!」
「高いとこが怖いのはどうしようもねーだろ!?」
「ケガはないエリアス?一体どうしてそんなところにいたの?」
「そ・・・それは・・・昼間ホテルに来る途中、花を見つけたんだけど。レオンがどうしてもその花を取りたいって騒いだんだよ!
よ・・・よりによってあんな高いところにあったせいで・・・」
「この大雪の中、花ですって・・・!?それじゃあ双子は!?どこに行ったの!?」
「双子は・・・俺が動けなくなったのを見て・・・兄貴を呼んでくるって言いながら2人で・・・どこかに・・・」
シュリーが青ざめる。
「今すぐ探しに行かないと・・・!」
「奥様、お待ちください!」
「待てないわ!!もうじき夜になってしまうのに・・・!」
「あちらに・・・」
「ママァー!!」
ノラに肩車をしてもらうレイチェルと泣きながら花を持ち片手をひかれるレオンがいた。
「レイチェル!レオン!」
「ママ!エリアスが大変なことに・・・」
「死ぬかと思ったぁー」
「おい!お前ら何で俺1人置いていくんだよ!!」
「あれ!?なんだここにいるじゃない!」
「3人ともどうしてそんな危ないことをしたの!?」
「だって花が——」
ノラは父がいることに気づき
「出て来られたんですね」と話しその場を去る。
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【ニュルンベル公爵回想】
『アルブレヒト!お前のような奴はニュルンベルの恥だ!』
灰皿で額を切り血を流す子供の頃。
『アルブレヒト、テオをお願い私が信じられるのはあなただけよ』
『あなたはそんな結末を望んでいるの?』
~回想終了~
公爵は額の傷に手をあて、息子の後ろ姿を見つめる。
******
「イテテテ、しみる!しみるってば!」
「そんなに大きな声を出せるってことは大丈夫そうね。兄として双子を止めるどころか!一緒についていくなんて!一体、何を考えていたのエリアス!」
「だって!すごく珍しい花なんだぜ!だからこの俺がわざわざ取りに行ってやったんだよ!」
「一体何の花なの?」
「・・・・・・【雪蓮】月の光を浴びて輝く花で花びらが輝いている時に摘んで渡すと。え・・・・・・・・・・・」
「え?」
「え・・・永遠に一緒にいられるって伝説の花なんだよ!!バカシュリー!!」
エリアスが真っ赤になる。
私が間違っていたんだ。本当はすべて分かっていたのね。ジェレミーのために私が去ろうとしていたことを。
シュリーがエリアスを抱きしめる。
「エリアス、レオン、レイチェル皆ありがとう。あなたたちの気持ちはありがたくもらっておくわ。でも今日のような危ない行動はもうしないと約束してくれる?」
「・・・・・・・・・お・・・俺も今日は・・・ちょっとやりすぎたって・・・思ってる・・・」
「本当?あなたがそんなことを言うなんて珍しい大人になったわねエリアス!」
「やっぱりナシ!悪かったなんて1ミリも思ってないからな!!」
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2日目
「今日は大人しくしておけよバカエリアス!お前のせいで昨日どれだけ大変だったか・・・」
「ふん!誰も俺を止められねーぜ!!」
兄たちのやり取りにアハハと笑う双子。シュリーは昨日の成長は夢だったのね・・・と思う。
3日目
ジェレミー「ところでお前は何で俺たちについて回ってるんだ?」
ノラ「世間は狭いからな。ついて回ってるわけじゃありませんよシュリーさん」
「私は構わないわよ」
串に刺したお肉を皆で仲良く食べた。
4日目
ジェレミー「おっ、また真ん中だ」
エリアス「弓を射るのは初めてのくせになんで俺よりうまいんだよ!!」
双子たちは雪を丸めて遊んでいた。
「ママを狙え!!」
「!?」

私の2度目の人生、その初めての冬はたくさんのことを経験し気付き手に入れる過程だった。
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「どうするんだ?初めての家族旅行なのに全然、気が休まらずに終わってしまったな。敬愛する母上の感想は?」
「ジェレミーあなた孝行息子のフリに味を占めたわけ?もう止めてもいいわよ」
「たしかにお前の年で母親扱いされるってのはいい気分じゃないだろうな」
「今さら気付いたの?」
「母親、姉、保護者、呼び方がどうであれ」
「家族、皆でこれからもずっと一緒にいればいいじゃないか。そうだろ?」
そう、この先どんなことが待っていようと私たちは一緒だ。
「珍しいじゃないジェレミーあなたがそんな殊勝なことを言うなんて」
一緒ならどんなに困難な瞬間も乗り越えられる。
誰に何を言われようと私たちは家族なのだから
第56話 感想
大変なこともありましたが本当の家族に近づけた感じですね。