第34話 ネタバレ
「・・・永遠だとか安寧だとかそのようなうわべばかりを飾り立てた言い訳はやめていただきたい!聖誕祭の規模を縮小すれば我が帝国の力が弱まっているということを同盟国と隷属国に公表するも同然だというのに。だからといって今のような不安な時期に市民たちからより多くの予算を取り立てることは
暴動の火種になりかねません!!」
「!」
「・・・・・・教皇庁はすでに決定を下しました。契約をなしにして物資の量を減らすなり求人を中止するなり貴族席の皆様でご相談いただきますよう」
「ああもう!だからそれが簡単にできることではないと言っているのですよ!」
「聖誕祭が皇室と教皇庁、私たち全員にとって重大な行事であることは明らかです。それは市民たちにとっても同じことでしょう。光溢れる道は翌年の豊穣を意味し厳しい1年を耐えてきた誰もが聖誕祭の温もりを待ち望んでいます。
だからといって毎日を生き延びることがやっとの市民たちに増税を課すことはできません。ですので——」
「不足分の今年の聖誕祭予算はノイヴァンシュタイン家より補填させていただきます」
「枢機卿様、協会の奉仕活動は財政報告を行いませんよね?」
「え・・・ええ」
「我が帝国のためとはいえこれは私にとっても大きな決断ですので教皇庁は撤回された予算の分『救援』に力を注いでいただけたことを後日貴族院議会に公式的に証明してください。そうなれば私もより出資のしがいを感じることができると思いますので」
貴族達がシュリー発言に驚きザワザワするなかシュヴァイク伯爵が笑う。
「わははははははは!!」
「シュヴァイク伯爵!?」
「よいではありませんか!我がシュヴァイク家からも出資いたしましょう!もちろんノイヴァンシュタイン家と比べれば小バエの糞程度の財力ですので!限りなくささやかな額ではありますが!!とにかく前代未聞の試みですなもちろん賞賛の意味ですよ」と笑った。
「決まりましたね。黄金の獅子に倣いニュルンベル家でも協力を惜しむことなく聖誕祭は例年通りに開催、教団側では今後論議の通りに聖誕祭前後に行われる救援活動の内訳と予算の使い道を期間内に議会に提出いただけますようお願いいたします。会議はこれにて終了といたします」
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「ノイヴァンシュタイン夫人」
「ニュルンベル公爵様」
「素晴らしいご意見でしたね。教会を牽制することもできましたし」
「そう仰っていただけたら安心ですわ」
「ハインリッヒ公爵の言ったとおり萎縮した皇室を対外的に見せるのは危険なことですから。でも基本的に貴族たちは免税対象ですので・・・あんな方法を思いつく人は誰もいないでしょうね」
「・・・シュヴァイク伯爵が同調してくださったことが奇跡ですね」
「とにかく最も年若い夫人が宣言したことによって対面を重視する他の貴族家たちも加勢してくれるでしょうから心配はご無用ですよ」
「・・・・・・ニュルンベル公爵様、あの・・・協会が聖誕祭から手を引くと言い出した理由はご存知ですか・・・?」
「前回の議会で見たように聖誕祭を誰よりも重要視しているのは教皇庁なのによりによってこの時期に予算を他に回すと言い出すなんて私の知らない意図があるのかもしれないと思ったんです・・・ただの杞憂でしょうか?」とシュリーは尋ねた。
「市民たちの生活がより厳しくなっていることは事実です。夫人がそんなことまで気にされる必要はないと思いますが。それより子供たちの聖誕祭の贈り物はもう決められましたか?」
「我が家の子供たちが喜びそうなものは決まっているので」
「やはり剣ですか・・・うちの息子もです」
「剣ですね。エリアスには他のものをあげなければならないかもしれませんけど」
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(心配しなくてもいい——か・・・それでも過去とは違う未来を作りたい)
ちょうど今の時期に起きた『民衆の声』増税に耐えかねた民衆たちが暴動を起こしたのだ。
(今日の会議は一時しのぎにすぎない。でもこのまま努力を続ければあの暴動を防ぐことができるかも・・・)
カラスの鳴き声が聞こえ、目の前を飛び立ったカラスにシュリーは驚く。
(・・・ビックリした)
シュリーが前を向くといつの間にか枢機卿がいた。
「リシュリュー枢機卿様・・・?」
「・・・今日の決定・・・無理があるのではないでしょうか。帝国最高の大富豪であるとはいえ——」
「・・・私の判断を非難しに来られたのですか?」
「そうではありませんがお望みであれば」
「協会が好ましく思っていないことはよく分かっています。黄金の獅子はどのような制圧も受けずそして何よりも私は自分の理性と経験により考え行動しています。判断を覆すつもりはありません」
「それですよ。たった16歳の少女が持つその確信」
「!」
「・・・何のお話でしょう?」
「余計なことを言わなければ貴族席は市民たちから予算を取っていたはず。暴動の可能性?そんなものはわずかな疑惑と不安にすぎない。でもあなたは確信していました。貴族と皇室、私たち司祭に向かって彼らが刃を振るうことを。その確信の根拠が何なのか疑問に思わずにはいられないのですよ。」
「・・・皇太子殿下が頻繁にノイヴァンシュタイン家を訪問されていると聞きました。我々は神に見守られている一点の恥も作ることは許されません。政治よりもご自身の行いを悩まれるべき時であるようですね」とすれ違う際にリシュリュー枢機卿に言われシュリーは振り向く。
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帝国でもっとも神聖な場所である皇室礼拝堂
(少し落ち着いたわ。よかった・・・あんな気分のまま家に戻りたくなかったから。神官のせいで不快な気分になったのにそれを解消するために礼拝堂を訪れるなんて少し矛盾してるような・・・はあーあの人は一体何が気にいらないのかしら?急に現れておかしなことを言って・・・まるで私が殿下を唆してるみたいに・・・!悩んでるのはこっちの方よ!
子供の頃にこんなふうに心が乱れる時はお祈りをしていた。食事の前やベッドに入る前も。この習慣が薄れたのはノイヴァンシュタインの屋敷で暮らし始めてからだ)
ジェレミー『お前のようなバカは聖母マリア様でも救えるもんか!地獄に落ちてから泣きごと言うなよ!!』
エリアス『それは兄貴の方だろ!天から見放されてるくせに!!』
※ケンカの時にだけ口にする『神』
(帝国民であれば誰しもが敬虔な信者であるはずだけど子供たちを見る限りでは・・・信仰とはほど遠い気がする。権能を称えないヨハネスの方針のため屋敷内が比較的自由な雰囲気になったのね)
(誰かいる。・・・何をしているのかしら?祭壇の前に座り込んで・・・)
「!」
「ノラ?やっぱりノラね。どうして皇宮にいるの?お父上について来たの?」
シュリーが声をかけると顔をあげたノラが涙を見せた。
「!!」
「ノ・・・ノラ!?どうしたの?もしかして体調でも・・・」
「シュリーさ・・・」
「・・・大丈夫よノラ・・・大丈夫」
第34話 感想
リシュリュー枢機卿が何を考えているのか謎ですね。 そして、ノラが礼拝堂で泣いていましたが何があったか気になります。