第30話 ネタバレ
「先ほどの階段の先にはラウルス様への祭儀を行う祭壇があります。ちなみに、ラウルス様が降臨される場所でもあるので一般の出入りは禁止されています」
ディエリゴがエレニカに教えてくれた。
(お父様のバカァァ!なんでそんな重要なことを事前に教えてくれないのよ・・・ディエリゴがタイミングよく来てくれたから良かったものの危うく神様が降臨する祭壇に足を踏み入れるとこだったじゃん!)
「そういえばどうしてわたしがあそこにいるって分かったんですか?」
「陛下がヒントをくださったからです」
「ヒント・・・?」
(わたしとずっと一緒だったのにいつの間に・・・)
ディエリゴの言葉を聞きエレニカは思う。
「直接会って話さなくても神聖力を持つ同士で疎通できる方法がありまして最も強く純粋な神聖力をお持ちの陛下にとって私にお考えを伝えることなんて容易いことです」
(さっきのはただの独り言じゃなくて神聖力を持つ騎士たちと話してたんだ!)
「ところでお身体は大丈夫ですか?」
「あっはい!こんな調子いいのは久しぶりってくらい元気です!」
(天然の神聖力のおかげでむしろテンション高すぎるくらい・・・)
「皇城よりも神殿の方が過ごされやすいはずです魔鉱石に注意する必要もございませんし。ただ一般の方の出入りが禁じられている場所が多いのでその点はご注意ください」
「はい・・・ちゃんと大人しくしときます」
(きっとわたしの性格知ってるから心配なんだ。大司教内定者だって知る前までわたしの専属ガイドにしちゃったからね)
「あの・・・お忙しいところ邪魔しちゃってごめんなさい今日だけじゃなくて・・・今まで色々とご迷惑をおかけしました」
「どうか謝らないでください姫様それにそんなに忙しい方でもないので・・・」
(ディエリゴは本当に優しいなぁ少しだけでいいからお父様もディエリゴを見習ってほしい・・・)
お父様だったら間違いなく・・・
『分かっていたとは驚きだな』ってからかったはずとエレニカは思う。
(やっぱり気になる大丈夫だとは思うけど心配だなぁ・・・お父様は深刻な問題じゃないみたいな言い方してたけど絶対何かあるし。さっきソルレアがベルック宮殿に暗黒の魔法をかけていたのかも知れない・・・)
「姫様あちらの金糸がかかった方は司祭専用の祈祷室への通路でして一般の方の出入りは禁じられています一般の方専用の祈祷室はすぐ隣で目印は赤い糸です」
頭が痛くなるほど思い悩んでいたエレニカはディエリゴの話を聞き逃していた。
(金は一般向けで赤は司祭向けね!)
反対で覚えてしまったエレニカだったがディエリゴは気付かずに次の説明に入る。
「祈祷室を過ぎて中に入ると信徒たちが利用できる空間があります」
「なんか・・・貴族たちが多いですね」
「あ・・・はいそうですね残念ながら首都ではラウルス様に直接お祈りできる場所がここにしかないのでそれと神殿の中では身分と関係なく平民も貴族も同じ空間を利用できます。さあこちらへどうぞ・・・今日は普段よりも人が多いようですね」
「見て!ピンク色の髪の毛!」「ひょっとしてあの方が・・・」「陛下が直接お連れした方かしら?」「どうりで最近エルラドが不機嫌にしていると思ったわ」
エレニカを遠目で見ながら神殿に来ていた令嬢たちが話していた。
(何?なんかわたし見られてる?)
周囲の目を気にして恥ずかしがるエレニカはフードを被った。
(誰かに注目されるとなぜか抵抗感を感じるんだよね。こういう時お父様がそばにいたらなぁ・・・)
******
「ここは私の書斎です。信徒の部屋にお連れしようとしたのですが思ったより人が多かったので・・・」
「あっ ありがとうございます」
「お茶はいかがですか?」
「あっいただきます」
エレニカは長椅子に腰かけてゆったりする。(みんなの視線が気になってなんかすっごく恥ずかしかった・・・)
「そういえばどこかに行かれるところでしたか?」
「陛下と観光がてら首都に・・・でもちょっと問題があって——」
「陛下が直接同行されたのですか?」と驚くディエリゴ。
「はい色々と事情があって・・・」
「実は急に来られるとの連絡を受けて何かあったのではないかと心配していました」
「・・・特に何かあったってわけではないのですけど陛下はずっと何かを警戒している様子でした」
「そうでしたか」
ディエリゴからお茶をもらい「やっぱり落ち着くな~」と一息するエレニカ。
「陛下が姫様をとても大切に思っていらっしゃるようですね」
「だ・・・誰がそんなことを?」
ディエリゴの言葉にお茶を吹き出してむせるエレニカ。
「いやただの勘です。それに聞いた噂もありますしね」
「噂?」
「はいでも私も詳しくは・・・お祈りに来られた貴族の話を小耳に挟んだだけなので・・・」
「どんな噂ですか!?」ディエリゴの話にくいつくエレニカ。
「陛下と関連のある噂が・・・出回っているようです」
「いい方にそれとも悪い方に?」
「さあ・・・私には判断しかね——」汗汗しながらディエリゴは言う。
「『あの二人できてるんじゃないの?』だったらいい方で『変な女が皇城に現れた』だったら悪い方に決まってるじゃないですか!」
エレニカの言葉に(なるほど)と思ったディエリゴ。
『皇帝陛下がルボブニへの見せしめとして姫を地下の牢獄に入れたんですって』
『いや夫が皇城でルボブニの姫を見たと言っていましたわ』
『陛下がルボブニから本名を連れて来たんですって!』
『どんな方であれあの蛇のような女よりはマシだから私は賛成ですわ!』
ディエリゴは噂を思い出し「いい方に近いかも知れませんね」と話した。
「なら良かった」と喜ぶエレニカ。
(どこかで誰が何を根拠にそんな噂を流したのかは分からないけどついに神様が味方してくれてるんだ!)
「じゃあディエリゴわたしにも可能性ありますか?」
「どんな可能性のことでしょうか?」
「陛下と上手くいく可能性ですよ!」
「え?」
「ご存じの通りわたしの身体がこんなんだから陛下のそばにいた方が良いような気がして・・・」
「姫様あまり心配しないでください神殿で過ごされるという手もありますし」
「わたしは神聖力も全くないし司祭でもないからダメですよ。それに神聖な神殿を個人的な理由で利用しちゃうのは良くないと思うし・・・そうですよね?」
「・・・ですがお身体に異常があるようでしたら一度陛下に相談された方が」
「大丈夫です実はわたし・・・陛下のそばにいたいんです。そこでお願いがあるのですけど・・・
陛下がわたしに好意を持たれるように手伝ってくれませんか?」
第30話 感想
反対で覚えてしまったエレニカは、関係者以外立ち入り禁止の司祭専用祈祷室へ行ってしまい何か問題でも起こしそうな予感がしますね。