第11話 ネタバレ
「今すぐ決めて欲しいと言ってるわけじゃないお前にその気がないなら帰ってもらっても構わない。だがいつか別の災害が起こった時またお前の力が必要になるかもしれない。ここに留まって欲しいというのが俺の正直な気持ちだ」
ジャカールの言葉を部屋で思い出しムスッと考え込むアミーナ。
「帰ろうと思えば帰れるわよ・・・雨を2度降らせればいいだけだもの・・・なのに願いがないなんて・・・普通じゃないわね」
(そもそも今のこの状況だって私の望みだったし、この力も他人の願いにしか使わないつもりだったのに・・・)
決めてくれって言ってたけど・・・どうしたらいいの?
「ほんとことごとくめんどくさい人ね・・・」
アミーナが言葉に出すと「誰のこと?」と聞かれた。驚いてベッドから起き上がるアミーナはランプを懐に隠した。部屋には女中のクーシャが食べ物を運びにきていた。「まさか私のことじゃないでしょうね?」と尋ねるクーシャに「他の人のことよあなた達には迷惑かけてるもの」と言う。
「そんな気にすることないわよぉ!ジャカール様・・・いや司令官殿がお連れになったってことは何か事情があるんだろうし」と笑うクーシャ。
「あの人て信じられる人なの?」
「私たちにとってはね!ムスティア様の息子だもの。テス宮殿ぐらいになると女中だって誰でもなれるものじゃなかったの。担当の管理人に銀貨20枚を捧げてやっと職を得られたんだって。そんな中、生活の苦しい人を優先的に採用するように制度を変えてくれたのがムスティア様だったの」
「じゃあクーシャも?」
「うん・・・主人を早くに亡くしてね・・・子供もいたから運が良かったわ。トルラも家に兄弟が多いの西宮殿の女中は大体そういう身分の人達ね
とにかく恩人のような方よジャカール様もね東宮殿はまた旧式に戻ったけど・・・西宮殿はジャカール様が規定を変えずにいてくれたから私も働き続けられるの。だから東宮殿はみんないいとこの人間ばっかり!この前なんか・・・」
ぺちゃくちゃと話していたクーシャは、はっとした様子で「やだ私ったら!またおしゃべりに夢中になっちゃった!」と言う。「ううんたくさん教えてくれてありがとう。もう一杯お茶をもらってもいい?」と尋ねるアミーナ。
「アミーナがコーヒー好きか分からないからローズティーばかり持ってきちゃうわね」
「バラでお茶を淹れたの?」
「うん庭園には温室があるから一度行ってみる?ずっと部屋にばかりいたじゃない」
驚くアミーナにクーシャはニコッと笑いすすめる。
クーシャによると帝国というところは大体7つの州に区分されそのうちパーズ州が中心都市なのだという。テス任務は州の統治だった。テス・アルワブはスルタンに属するイェニチェリの出身だ彼は妖精の討伐で名をあげた戦士だった。
彼は妻であるムスティア王女は傍系の皇族だったが数世代前はスタンの孫娘だった。テスの結婚相手としては勿体ないぐらいの財源があったそうだ。そのため生前のムスティアはテスと同様、政治にも介入していた。
ジャカールは彼女の残した唯一の子孫だ。彼の身に付ける紫色の大綬は王家の血を引いている証拠なのだという。そこに幼少期から盗賊や妖精討伐に参加した功績が称えられ与えられた称号がサフラン。
(なんつー華やかな・・・そんな人なら願いがなくても頷けるわね
でも本人は・・・)
「父さえ元気になればこの問題も解決すると思っていたんだがな・・・俺はテスの座など望んでいない。だが俺が身を引いたところで済む話でもないんだ」と話していたジャカールの言葉をアミーナは思い出す。
「・・・まっ私には関係ないか」と考え直した。
歩いていたアミーナは建物を前に、ここがその温室?ガラス張りだわと思った。門を両手で掴み開こうとするが重く開けずらかった。なんとか開き庭園に入ることができたアミーナ。
温室には赤いバラがたくさん咲いていた。
「ここだけ温度が違う・・・まるで魔法みたい・・・どうやったのかしら?
私が作るとしたら壁全体に熱感知術式を設計したあと・・・媒体はアメシストと茶色のマノで水分は外から一定量・・・」
考えていたことがぶつぶつと言葉にでていたアミーナに「何を見てるんだ?」と声がかかる。振り向くとジャカールの兄、ナディールが立っていた。
初対面のアミーナは「あなたは?」と尋ねる。「ははっ 俺を知らないだって?お嬢さんは錬金術師か何か?だとしたら薬剤師?それとも調香師?」と逆に尋ねられた。
バラを踏みつけてアミーナに近づくナディールに「バラがぐちゃぐちゃになっちゃうじゃない」と咎めるが「こんな花ぐらいどうにかなったところで何だっていうんだ?テス宮殿に知らない奴がウロついてることの方が問題だ」とナディールは上からアミーナを見下ろして言う。
「なーんてね 弟が西宮殿に女性をかくまっているというから誰かと思ったら君だったんだね」
警戒するアミーナにナディールはニコっと笑いかける。
「じゃあ あなたが・・・」
「そうだ母親は違うがあいつの兄だよ俺の名はナディール君は?」
「アミーナ」
「きれいな名前だねそれに顔も名前負けしていない」とナディールは言い、スッとアミーナの顔に触れてきた。アミーナはナディールの手を払う。
「触っていいなんて言った覚えはないわ」と睨むアミーナ。ナディールはアミーナに払われた自分の手を見つめ「おっとこれは失礼生真面目な弟がかくまっていた女性が美しかったのでつい・・・」と話す。
「そんな風に調子のいいことを言って場を乗り切るのがあなたのやり口なの?」と聞くアミーナに「負けず嫌いで口答えばかりするのは君のクセなのかな?まぁいいだろう俺も偶然通りかかっただけだお互い用件だけを聞いておさらばにしよう」とナディールは言う。
「私は用件なんてないわ」とこたえるが「ずっとここを覗いてただろ?どうすれば花を摘んで帰れるのか気になっていたんじゃないのか?」と尋ねられた。
「そんなこと考えるはずないでしょこの施設がどうやって作られているのかみてただけよ」
「それならやっぱり君が適任だ」
「何のこと?」
「ここは錬金省の管理下にあり錬金省は州行政部の傘下にあるこの温室は錬金術でできてるってことさ」
「錬金術?」
「ん?まさか錬金術を知らないのか?」
第11話 感想
ジャカールの兄ナディールとついに対面したわけですが、なんか女癖の悪そうな兄というか・・・弟の物は何でも狙っていそうだし、ジャカールにコンプレックスがありそうな感じがします。