第58話 ネタバレ
【回想】
『常に口癖のように強調されるその義務。一日でも早く手放してしまう方が夫人にとってもよろしいのではないでしょうか』
オハラに言われ、シュリーは物思いにふける。
「・・・お呼びでしょうか奥様」
「・・・・・・【ハイデルベルク別荘】のことだけど・・・やっぱり明日の朝ここを去ることにするわ」
「!?」
「結婚式が始まる前に出発できるように馬車を待機させて騎士たちにも前もって伝えておいてちょうだい。私1人の旅だから護衛は2人いれば十分でしょう。誰にも知られないように準備をして」
「奥様それは・・・!」
「ジェレミーに私は結婚式に参席する必要がないと言われたの。あの子がそう言い出すだろうことをまったく予想していなかったわけじゃないわ。あの子が私に何かを望むのはこれが初めてだもの快く聞き入れてあげないとね」
「・・・・・・!従えません。どんな心境の変化があったのかは知りませんが長い間心待ちにしていらっしゃった結婚式ではありませんか!
その上、大勢の祝い客の前で奥様の不在を突然知ることになるお子様方の立場はどうなるのですか!?そのようなことは考えられないのですか?」
「団長、何か大きな誤解をしているようだけどこの家の主はまだ私よ。そして私はあなたの意見など求めてはいない。黙って指示の通りにして」
「・・・・・・奥様の仰せのままに」
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ジェレミー『受け取れ。なぜそんなに驚くんだ?一度も誕生日を祝われたことがないと責められるのはごめんだからな。これが最初で最後だ。持っておくなり捨てるなりお前の好きにすればいい』
シュリーが貰ったブローチを手に思い出を振り返る。
ガチャッ
シュリー「!」
エリアス「あれ?何だここにいたのか?早く別の部屋に行くぞ子分ども」
レオン「誰が兄様の子分なんだよ」
レイチェル「自分が一番子分みたいなくせに~」
「1つ訊くわ。もしも・・・ジェレミーが私に結婚式に来るなと言ったら彼の言う通り行かない方がいいわよね?」
エリアス「・・・・・・一体何なのか知らねぇけど・・・来るなって言われてんのにわざわざ結婚式に行くなんて惨めじゃないか?あの兄貴が大人しく受け入れるとは思えねぇし。」
「・・・そう、たしかにその通りね」
終わりが近づいて自分でも気付かぬ内に感傷に浸ってしまっていたようだ。あの子たちの間に私の居場所などなかったのに。
有終の美を飾りたいと思ったのもただ未練がましい私のわがままだ。でも私に暖かく接してくれた人にこの気持ちを伝えることくらいは神様も許してくださるだろう。
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「・・・この・・・馬鹿エリアス!どうしてあんなこと言ったのよ!関係を修復するどころかよりヒビが入っちゃったじゃない!」
「きゅ・・・急に訊かれたんだから仕方ないだろ!?それにお前たちだって!横で余計なこと言ってたじゃないか!」
「くっ・・・!」
「・・・でもさジェレミー兄様が本当に結婚式に来るなってニセモノに言ったのかな?これで本当に最後だから皆で一緒に努力することにしたじゃないか・・・」」
「・・・ケンカの勢いでそんなことを言ったんじゃないか?皇室まで行って問い詰めるわけにはいかないしな」
「はあ、まったく!」
「まあ・・・僕たちだって大して変わらないよ。急に態度を正すことがこんなにも難しいとは思わなかった」
レオンに良いアイデアが浮かぶ。
「こうするのはどう?」
「話してみろ我が家の天才くん」
「明日、僕たちの内の1人が式が始まる前に家に戻って落ち込んでいるニセモノを連れてくるんだよ!ほら最近流行りのサプライズイベントみたいに!!」
「サプライズイベントぉ~?おい、そんなのシュリーが絶対・・・喜びそうだな!!やるじゃねぇかレオン!」
「私も!私も1つ思いついたんだけど!ニセモノが来たらその時、私たち皆で【ママ】って呼ぼうよ!普段みたいに冷たく振舞ったり萎縮したりせずに心を込めてこれまでの感謝を伝えるの」
「・・・照れくさくて言える気がしねぇ」
「ダメ!絶対やるの!」
「レイチェルの言う通りだよ。別荘に行ってしまったらいつまた会えるか分からないから」
「どんな顔するだろう?さっきあんな風に言ったことも謝らなきゃね」
「分かった分かった!明日は絶対謝るって」
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「クソッ・・・またこんな自分勝手な決定を・・・」
これまでの数年間家門の名に泥を塗り続けてきてそれでも飽き足らず最後の最後まで騒ぎを起こすなんて。むしろこれで良かったのかもしれない彼女は誰もが知る醜聞の主役だ。
そんな人物がジェレミー様の母親として式に出るよりは・・・
(空席の方がまだマシかもしれないな)
「あの・・・アルベルン?これを早く受け取ってほしいんだけど・・・」
「!!あっそうだ!悪かったな代わりに持ってきてくれと頼んでおいて待たせるなんて・・・」
「いいって。それよりどうしたんだ?そんなに暗い顔をして何かあったのか?」
「・・・・・・明日はジェレミー様の結婚式なんだが奥様が最後の挨拶どころか式への出席もせずに夜明けと共にハイデルベルクへ発つと仰られた。だから騎士たちに用意を命じにいかなければならないんだ長旅になるから荷物もまとめないと・・・」
「本当に大胆な奥様だなぁ」
「ああ・・・」
「それじゃあ邪魔にならないように俺はもう帰るとするよ」
「いろいろとすまなかったな」
「気にするなよ。友達同士助け合うものじゃないか。そうだろう?」
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「——そのような次第で侯爵夫人は明日の朝早く長い旅程へと発つことになるそうです」
「・・・・・・」
「あっ・・・やはりあまりにもつまらない報告でしたでしょうか?最近は特に動きがなかったため焦ってしまって・・・」
「いや、よくやった久しぶりに利用価値のある情報だ」
第58話 感想
知られちゃいけない人に知られちゃった感じですね・・・