第35話 ネタバレ
「・・・恥ずかしい姿を見せてしまいました。俺・・・どうかしてたみたいです」とノラが話した。
「涙を流すことを恥じる必要はないわ。いつか本当に泣きたくても思いっきり泣くこともできない時がやって来るんだから」とシュリーは言う。
「・・・そのせいですか?」
「え?」
「シュリーさんはよく悲しそうな顔をするじゃないですか。でも泣いているところは一度も見たことがない」
(そうか・・・ノラと会う時はいつも・・・私は悲しみに暮れた顔をしていたのね)
「シュリーさん1つ訊きたいことが、あ・・・」
「?」
夫人と呼んでいないことに今さら気づいてビクビクするノラにシュリーは「シュリーさんでいいわよ」と笑う。
「・・・シュリーさんの目にも俺が救いようのない奴に見えるのかと思って」
「え?救いようのないって?」
「よくそんなふうに言われるんです。口さえ開けば嘘ばかりニュルンベル家に似つかわしくない存在。
他の奴らになんと言われようと・・・そんなのはどうだっていいんです。でも今日、父上を探しにここに来た時なぜか立ち上がることができませんでした。全てが事実であるように思えて」
「・・・シュリーさんにこんなことを話すのもおかしいですよね。俺のことほとんど何も知らないのに・・・絶対に」
「絶対にそんなことはないわ。ノラあなたは初めて会った私を何度も助けてくれた。あなたの言うとおり私たちが一緒に過ごした時間はとても短いわ。お互いについて知らないことの方がはるかに多いはずそれでも。私は間違いなくあなたが誰よりも正義感に溢れた思慮深い子だと思っているわ」
「・・・それで充分です今から父と闘ってきます。幸運を祈ってください。本当は決心がつかないままここに来たけどシュリーさんに会えて良かった」
ノラは立ち上がって言う。
「あの・・・ノラ辛いことがあったらいつでも会いに来てと言った言葉・・・絶対に忘れないで」
「はい、ありがとうございます」
立ち去ろうとしていたノラがシュリーの言葉を聞いて笑顔を見せた。
******
「今日の議決は陛下にも報告済みなのかしら?」
「はい皇后陛下」
「・・・教会がそんなことを言い出したと・・・ハッ!教団にそこまで帝権を好き勝手牛耳られているにも関わらず一言も言えずに黙り込む陛下の姿が目に浮かぶようだわ!」
帝国カイザーライヒ皇后(現)エリザベート・フォン・バーデン・ヴィスマルクは言う。
「たしかに皇帝の王冠は教団から被せられたも同然だものね!」
「皇后陛下・・・」
「『陛下』だなんて・・・お前まで私にかしずくフリをするつもり?アルブレヒト」
「かしずくフリだなんて・・・しかし厳格な皇室礼法があるというのに——」
ニュルンベル公爵が言うと皇后にギロッと睨まれたので仕方なく言いなおす。
「はい姉上」
「とにかくあの古ダヌキのような枢機卿たちを前に透明性を要求したのは小気味よいことだけれど帝国が巨大であるほど教会は自由なもの。表面的には救援活動に励んでいるように見せかけて残りの資金は監視の目に触れないようにこっそりと懐にしまうつもりなのでしょう。どうせ捕まることなどないものね」
「聖誕祭は巨額を動かすための名分であったということでしょうか」
「聖誕祭でなくとも他の機会があれば動いていたはずよ。皇室に対する力の誇示と見てもいいでしょうね」
「姉上は教会の目的についてどうお考えですか?」
「贅沢と享楽を楽しむつもりなら堕落した司祭たちの懐の金貨で充分なはず。そうなれば残るは1つ皇帝陛下の息がかからない彼らだけの私兵」
「教会が聖戦を準備していると・・・仰るのですか?」
「・・・そんなことは分からないわ。でもアルブレヒト・・・お前も気づいているでしょう内側から腐りつつあるこの国をいつか戦乱の幕が切って落とされてもおかしくはないわ」
「・・・・・・しかしそんなことを陛下が・・・」
皇后がスッと片手を上げて話しを中断させた。
「!」
「どうしたの?」
「恐れ入ります皇后陛下。まもなく午餐に向かわれるお時間ですので・・・」と使用人が言う。
「ああ、そういえば陛下と約束をしていたわね。すっかり忘れていたわ~」
「ええっ姉上・・・!!」
「うるさいわねぇ少しお待たせするだけじゃない」
「・・・・・・もう少し思いやりをもって陛下に接していただけませんか?お願いします」
「お前がそんな調子だから戦友どうしのくせに互いに秘密が多いのよ」
「それは一体・・・」
「じゃあね」
「ああ、この前のノイヴァンシュタイン家の追悼招宴でノラがまた皇太子に失礼なことを言ったそうね?仲が悪いとはいえ一国の皇太子にそんな態度をとるのは褒められたものではないわ。忙しいのは分かっているけれど息子の教育にももう少し注意を払いなさい」
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皇后が去るとニュルンベル公爵も部屋を出て行きため息をつく。
そこへノラが声をかけた。
「父上」
「・・・ノラ?」
「・・・・・・父上お話が・・・」
「ノラ!!なぜ皇后宮まで来たのだ!許可もなくむやみに足を踏み入れることは許されない場所だぞ・・・!」
「——?俺はただ父上を探していて・・・」
「皇宮の近衛隊は何をやっている!早くついて来なさい!まったく・・・どうしてお前はいつもいつも問題ばかり起こすんだ!!」
(・・・一体、俺は何を期待していたんだろう。俺の声は届かない。いつだってそうだった。この家の息子は俺じゃダメなんだ。父上は俺を愛していないんだ)
第35話 感想
今回のことで親子の溝が深まってしまったようですね。