第27話 ネタバレ
「まだ熱はありますが峠は越えましたので少しずつ回復するでしょう。あまり心配なさらず何かあれば人をお送りください」
「ありがとうございます先生」
「シュリー・・・もう僕のこと苦しめないでくれって神様に言ってくれ・・・」とベッドで寝込むジェレミーが言う。
「何言ってるの?私にそんな能力があればどれだけいいかしらね」
(もしも神様に会えたならむしろ私が質問攻めしてしまうかもしれないわね。新しい機会をくださった理由だとか、私が屋敷を離れた後皆がどうなったのかとか)
「奥様これからは私たちが看病いたします」
「うん熱にさえ気を付けていれば大丈夫だと思うわジェレミーの昼食は部屋へ運んでね」
「かしこまりました」
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「・・・・・・」
(いろんなところから見舞いの贈り物が届くせいで確認しても確認しても減らないわ・・・)
「これも見舞状・・・これも、あら?これは—えーっと・・・チュートン文字ね異国の薬まで送ってくださるなんて・・・」
病を気遣う手紙にさまざまな助言が書かれた推薦書が届いていた。シュリーはニュルンベル夫人からの手紙を読む。
『帝国を染める若々しい青緑の一日も早いご回復をお祈りいたします』と書かれ、手紙と一緒にケシの実キャンディーを送ってくれた。
(一日に一粒ずつもしくは粉末にして牛乳に混ぜて服用か・・・)
「ありがとうございます公爵夫人さっそくジェレミーに飲ませなくちゃ」
慰めというものは時に神よりも人間から与えられる
(お礼も兼ねて一度伺わないと)
ノックの音がしたのでシュリーが「どうぞ」と返事をすると
「奥様・・・今すぐ来ていただけますか・・・!!下に・・・!皇太子殿下が・・・いらっしゃって・・・」
「・・・・・・!」窓から下を見たシュリーはあ然とする。
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「ご心配なく!はしかには以前かかったことがあるので大丈夫ですよ。本当はもっと早く見舞いに来たかったのですが・・・父上と教会の許可がなかなかおりなかったのです」と皇太子は言う。
(許可が出たことの方が驚きです殿下・・・)
「ジェレミーはまだ完全に治っていないためお見苦しい姿ですがどうかお許しください。」
「もちろんですよ。あの血気盛んなジェレミーが病にやられて大人しくしている姿が気になりますね」と笑った。
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「え?どうして殿下が・・・」と驚くジェレミー。
「なかなか大変だったみたいだな!すっかりやつれてしまったじゃないか~」
「何ですか皇太子の仕事は暇なんですね。病人をからかいに来たんですか?」
「そうだとも!君も生まれ変わったら皇太子になってみるといいさ。早く治して狐狩りに行こう」
「ああもうそんな時期ですか?」
「君がずっと寝込んでいたからお母上までやつれてしまわれたようじゃないか!この親不孝者!」
「親不孝だなんて僕ほどの出来た息子はいませんよ」
「まったく君はいつになったら謙虚になるのかな」
「殿下が剣術で僕に勝てる日が来たら・・・ですかね」
「何だって?つまり一生謙虚になるつもりはないということか?ひどいな~」
(良かった元気が出たみたいね)
「ママー!!」
「!」
「テストで満点だったの!レオンの負け~!!」と笑いながらレイチェルが言う。
「!?何で!?僕だって満点だったよ!」
「あんたは毎日満点だから今日はあたしの勝ちなの!」
「そんな~」
「エリアスも作文がよく書けたって先生に褒められたの!」
「すごいじゃない」
「このくらい普通だろ」
(どうしよう殿下がいらっしゃるから子供たちの相手をするのは・・・)
悩むシュリーに殿下は『ここは僕に任せて子供たちと遊んであげてください』とジェスチャーする。それを見たシュリーは嬉しそうな様子だった。
「皆、皇太子殿下にご挨拶差し上げて1階で一緒に静かに過ごしましょういいわね?」とシュリーが言うと双子はピクッと反応する。(ん?何なのその顔は・・・)と思うシュリー
「ご機嫌うるわしゅう皇太子殿下!!」「ご機嫌うるわしゅう!!」
「それでは失礼します!どうかお元気で!!」と駆けて行く。
「はは、ああ分かったよ」と皇太子は笑う。
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「皆でお茶にするの?」
「お菓子も食べる!?」
「そうしましょう」
手を繋ぎながら「ママと一緒だから嬉しい。今日はジェレミー兄様じゃなくてあたしたちといてくれるから嬉しい」とレイチェルが言う。
「レイチェル・・・」
(ふとこの小さな手を最後に握ったのがいつだったかと考えた。目が回るほど忙しかった招宴の準備その後も私の頭の中はジェレミーの心配で一杯だった。他の子供たちはどれだけ不安だっただろうか。今日ジェレミーの明るい顔を見れていなかったらこんな風にゆっくりした時間を過ごすことも考えなかっただろう)
(こんなに優しい方だと知らずにいたことが申し訳なくなるほどありがたいご厚意だわ・・・)
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レイチェルとレオンは眠っていた。シュリーは窓から外を見ながら(もうこんな時間もう少しで日が暮れてしまうわね)と思う。
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「失礼いたします殿下・・・」
「!」
シュリーがジェレミーと皇太子がいる部屋に戻ると2人は仲良さそうにソファーで眠っていた。シュリーは掛け布団をかける。
ジェレミーも殿下も幼い頃に母親と死に別れそれぞれ帝国と名門家の後継者で共通点も多い
(こんな風に親しくなるのも無理はないわね。皇太子殿下・・・やっぱり皇室では寂しい思いをしていらっしゃったのかしら。・・・そういえばノラ公子はどうしているのかしら?追悼招宴の後から全く話を聞かないけど)
皇太子の寝顔を見て「ふふ、こうして眠っていらっしゃるとまるで子供みたい」とシュリーは言う。
「2人とも毎日お疲れ様今は少しだけゆっくりお休みなさい」
シュリーは子守唄を歌う。
『草花がベッドを包み込んで 羊たちももう夢の中 夜のフクロウは優しく歌うおやすみなさい私の可愛い子天使に守られながら おやすみなさい楽園の甘い夢の中で おやすみなさい私の子・・・』
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皇太子が帰った後、ケシの実キャンディを開けると空になっていた。(これを食べて寝てしまったのね!)
第27話 感想
追悼招宴の後もシュリーは看病や手紙の処理とかで忙しそうでした。皇太子からのお見舞いもあり、さすが侯爵家って感じですね。