第29話 ネタバレ
「・・・『会話』をしてほしいということでしょうか?」とシュリーは尋ねた。
「ええ・・・ノラは母である私にももうずいぶんと長いこと心を閉ざしていまして誰とも親しく付き合おうとしない上に全寮制の学校へ行かせても家庭教師をつけても効果はありませんでした・・・日が経つにつれてあの子の反抗はひどくなって私どころか夫のアルブレヒトさえもあの子を止めることはできないのです。
この前の追悼招宴で夫人とお子様方の絆を目にしました。あの仲睦まじさはきっと互いを深く理解しているためでしょう。夫人1週間に2~3回程度短い時間でも構いませんお許しいただけないでしょうか?
夫人とお話をしてもお子様方と共に過ごしてもそのどちらでもよいのです。もしかしたらよい母であり・・・同じ年頃の夫人相手であれば少しでも心を開くのではないかと・・・そうなれば・・・私にも機会ができるのではないか——」
(これは・・・全く予想していなかった。もう少し公的な理由だと思っていたのだけど・・・ここまで切羽詰まった頼みだなんて・・・すぐに受け入れるのは少し難しい・・・)
バンッと大きな音が聞こえた。
「坊ちゃん!また黙ってどこかへ行かれていたのですか!奥様がどれほど捜されていたか・・・」
「関係ない」
「・・・!お客様にご挨拶もされずに!」
「関係ないと言っているだろう」とノラは言い階段を上っていく。
出迎えに行ったニュルンベル夫人は困った様子で「ノラ・・・」と小さく呼びかける。
「ご機嫌よう公子、久しぶりにお会いできたというのに。お顔も見せてくださらないのですか?」とシュリーは微笑む。
ノラは片手をギュッと手を握り
「・・・また俺の話は聞こうともしないんですね。もう、うんざりだ」
スタスタと部屋に行ってしまったノラをみて、ニュルンベル夫人は涙をこらえる。
「とりあえず・・・話はしてみましょう。ただ公子の反応を見るに今は慣れないうちの屋敷よりはここで会う方が良いのではないかと思います。明日またお伺いさせていただいてもよろしいですか?」とシュリーは尋ねた。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます夫人・・・でもそれではあまりに申し訳ないので初日だけでもノラに行かせるようにいたしますわ」
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帰りの馬車の中でシュリーは「承諾してしまった・・・」とため息をつく。
(うちのライオンたちだけでも手に余るというのに・・・!きっと今生でも他人の子供の面倒をみる運命なのね・・・!私のロマンはどこへ・・・)
「でも見方を変えれば無意味な決定ではないわ」
(ヨハネスが亡くなってニュルンベル家門との関係が疎遠になることを懸念していたところだった。家風を受け継ぎ騎士になることを拒んだアルブレヒト公爵が政治と外交の世界に飛び込んで活躍し一族から皇后陛下まで輩出した今。
家門の優位をつけるとしたら明らかに——
とにかく公爵夫人が社交界の集まりを避けているという話まで出回っている時にその手を取らないのは大きな損だ。でも公子と出会って間もない私が何かを変えることなんてできるのかしら・・・)
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ジェレミーと皇太子が狩りに行く日、エリアスもついていくと騒いでいた。
「おいついて来るなと言ってるだろ!邪魔になるだけなんだから!」とジェレミーは言う。
「誰が邪魔だって!?今日は俺の方が兄貴よりずっとたくさん捕まえてやるんだからな!兄貴こそ隣で足手まといになるんじゃねーぞ!」とエリアスが言い返す。
「飛ぶ鳥さえも笑い転げて塔にぶつかってしまうような馬鹿げた話だな」
兄二人の喧嘩を見て呆れた様子のレイチェルが「兄様たちに早く行けって言ってよ」とシュリーに言う。
そこへ、皇太子が現れ「今日は暖かいですね。皆 準備ができたようです。ジェレミーの奴ももう心配はいらないようですし」と声をかけてきた。
「皇太子殿下がお見舞いにきてくださったおかげですわ。熱が引いてからは皇宮へ呼ばれてもよかったでしょうに・・・」
「病み上がりの親友に宮まで来いだなんて言えませんよ。僕もここに来た方が楽しいですしね。」
「ジェレミー!今年は去年のように簡単にはいかないだろうから覚悟しておけよ!」と皇太子が言うと
「僕より多く捕まえられた奴がいたら兄上と呼んで差し上げますよ!」とジェレミーも言い返す。
「おしゃべりしてる間に動物たちが逃げてしまうわよ!気をつけて行ってらっしゃいあまり無理しないようにね」
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(今日はノラ公子がうちへ来るって言ってたわよね何の話から始めようかな・・・?茶菓子はお好きかしら?)
「ロベルト?公子が到着されたの?早く中へお連れして・・・」
「奥様、今・・・外にアグファ子爵夫人とアグファ小子爵と名乗る者達が来ておりまして奥様にお会いしたいと申しております」
第29話 感想
シュリーの母と兄が押しかけてきたようですが、ノラも丁度よく現れてくれそうな感じです。